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A Day In The Life -Extra episode.-




 スプリングの効いたベッドは二人分の重みを柔らかく受け止めていた。
シーツはぐちゃぐちゃになっていたが、そんなことに気を使う余裕は今の二人にはない。
「ぁ・・・ンッ」
 オスカーの身の内に、自らの欲望を収めたアリオスが腰を使う。
「も、いい、かげんに・・・・っはぁっ」
「っ・・だめ、だ・・ッ」
 一体、どれほど抱き合っているのか。
夜が更けるのを待ち焦がれていたように抱き合った躰は、その欲望を止めることを知らなかった。
 何度抱いても尽きることのない衝動に任せるまま、アリオスはオスカーの躰を離そうとしない。
切れ切れのセリフで抗議するオスカーもまた、本気でそう思っているわけではなく。
「絡み・・ついて離さな、いのは、オマエの方、だぜ?」
荒い息の中、からかうようにアリオスが告げれば。
「・・どこ、の・・・エロオ、ヤジだ、バカ、やろっ!」
抗議の声とは裏腹に、熱く締め付けてくるのは、紛れもなくオスカーの躰で。
 抱き合うだけが愛情表現ではない。それでも、互いを一番強く熱く感じるには、抱き合うのが一番確実でスピーディーだ。
 半月、触れ合うことのなかった躰と、物理的な距離以上に遠くに離れていた心と。
すべての溝を埋め尽くすように、飽きることなく抱き合うのだ。
「く・・・ッ・・アァッ!」
喉の奥が引き攣るような鋭い声をあげて、オスカーが果てる。一際強くなる内部の締め付けに、アリオスもまた、何度目かわからない欲望を放った。
 オスカーがぐったりとベッドに身を預けると、アリオスが間近でその顔を覗き込む。
欲情に濡れた視線が絡み、その距離を縮めると、深く唇を合わせた。
 何度も角度を変えて唇を合わせ、舌を絡ませて。
濡れたような音とキスの合間の浅い息遣いだけが響く。
 うっとり、という表現がしっくりくるような、そんな満ち足りた気持ちのままキスを交わしていたオスカーだが、未だ自らの躰に収められたままのアリオスのモノが再び硬度を増したのを感じて慌ててアリオスを引き離そうとした。
「ちょっ・・・アリオス!」
 まだヤる気か・・・。
下世話な言い方だが、しかしオスカーの心の声はその一言に尽きる。
「まだ、足りねぇ・・」
少し掠れたような、男臭さを漂わせた声で囁かれると、オスカーの躰も自然と反応しようとした。
 だがしかし。
体力には、限界というものがあるのだ。
はっきり言って、限界点は目前だ。アリオスにしても、かなり疲労しているはず。
「ん・・・ちょ、ちょっと待てって・・・ぁ・・・」
弱々しい制止の声に耳を貸す様子もなく、アリオスがオスカーの掌でオスカーの胸を撫で上げる。オスカーは、疲れ切っていても反応してしまう自分の躰を恨んだ。
 オスカーにしてみても、アリオスの気持ちはわからないでもない。というよりも、気持ちの面だけで言うなら、まだ足りない。もっと、強く抱き合って、溶け合う程に熱を分け合って、深く深くアリオスを受け止めて、満たされたい。
 けれど、哀しい哉、体力の限界は近く。
 そして、明日からはまた、いつどんな依頼が来るかわからない何でも屋の日常生活が待っている。
 このまま朝を迎えたら、確実に夕方まで眠ることになる。シャワーを浴びたいが、そんな体力は残されていないので、汗と体液に塗れたまま、という羽目に陥るのは確実だ。
 それは嫌だ・・・。
頭の隅にかろうじて保っている理性でオスカーはそう思う。
だが、アリオスの手に自身を扱かれれば、ダメだ、と思っていても感じてしまうわけで。
 躰だけではない、心まで満たされるような深い快楽は抗い難く。
自然、抵抗は弱いものとなる。
「ん、くぁ・・な、ダメ、だ・・って・・!」
そんな、切迫感皆無の抗議に、アリオスはオスカーの鎖骨のあたりを強く吸って跡を残してからニヤリと笑った。
「言っただろ。・・離したくないって」
 あれはそーゆー意味だったのか、アリオス~ッ!
呆然自失一歩手前の思考でオスカーはツッコミを入れるが、実際にはそれが声になることはなかった。
口づけてきたアリオスに、抗議の声が吸い取られたからである。
 明日、俺は立ち上がれるんだろうか・・・。
条件反射のようにキスに応えながらそんなことを考えて、オスカーは覚悟を決めてアリオスの躰を抱き締めた。
 なんだかんだ言っても、こうやって、再びアリオスと抱き合えることに泣きたくなるほどの歓びを感じている。
 躰よりも、心が。
 求めれば求めた分だけ、満たされることの歓びと。
 こうやって強く貪欲に、自分が求められているという幸せ。
理性は拒んでいても、本当はオスカーもこの時間を手放したくない。
だから、たまにはこうやって、今この瞬間だけを考えるのもいいだろう。
 きっと目が覚めたら、汗でベトベトして躰中気持ち悪いだろうな、とか。
 シーツは早く洗濯したほうがいいのにな、とか。
頭の片隅をよぎる、そんな諸々の思考には気づかない振りをして。
 もっと深いキスを促すように、オスカーはアリオスの髪に指を差しいれたのだった。



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