ずっと、不思議だった。
食べてはいけないとて言われた実を食べて、昔、人は楽園を追われた。
食べた実は、「知識の木」の実。
それを食べて人は、自分たちが裸であることを知り、それを「恥ずかしい」と思うことを知った。
「恥ずかしい」と感じることは、つまりその「恥」の部分に欲を覚えたということ。
それの、どこがいけないんだろう。
「何考えてる?」
唇を、首筋に押し当てたまま尋ねるその動きに、たまらなく感じる。
サイファーの腕は、いつも熱くて気持ちいいとスコールはぼんやりと考えた。
「・・・別に。」
素っ気なく言えば、サイファーはおかしそうに笑ってスコールの鎖骨に赤い跡をつける。
一瞬身をすくませる、隠しようのない、快感。
「相変わらず、感じやすいな、おまえ。」
「・・・うるさい。」
熱いサイファーの腕が、冷たいスコールの体の上をするりと這う。
相手の体に欲を覚える。
腕、足、指、胸、首、顔、背中、唇、瞳。
それに触れたくて、触れて欲しくて、頭がいっぱいになる。
それは、罪なんだろうか?
冷たいスコールの体が、少しずつ、少しずつ、熱くなる。
まるで、触れるサイファーの腕と同化するように。
「・・・ふっ・・・ぁ・・」
サイファーの唇が、胸に赤く息づく突起をついばむと、堪らなくて声が洩れた。
この快感を、神は悪だというのか。
「おまえ、スキだよな、こうされるの。」
するっと、触れるか触れないかのタッチで脇腹を撫であげると明らかにスコールの体が震える。
快楽を導き出すことに慣れた手。
この手も、楽園を汚す武器なんだろうかとスコールは霞がかる頭で思った。
神が作った楽園は、プラトニックラブだけを、強制する。
「ぅ・・ぁ・・っん」
熱いサイファーの手が、スコール自身を扱く。汗ではない体液に塗れた手がぬらぬらと光って淫らに映る。
「…もっと、啼けよ。」
「は・・ぁっ・・。くぅっ…んんっ」
唇を噛み締めても、噛み締めても、絶えることのない喘ぎ。
自分を乱す男が「もっと啼け」と言うから、その啼き声を男だけに伝えたくて、深くくちづけた。
絡めあう互いの舌に乗せて、素直に伝える。
「キモチ、イイ―――――――。」
神よ。
なにより愛しい者と、こうして触れ合うというこの快感を、どうしてアナタは否定するんだろう?
「キモチイイ」と思うことが、そんなにいけないことなんだうか。
こんなにも、満たされるのに。
体の中を掻き回す指に翻弄される。
もっと、と体中が泣き叫ぶ。
そして、ひとつになる。
「…ぁぁあああっ…っ!」
体の底から涌き上がる、歓喜の叫び。
体の隅々まで、満たされる。
細胞のひとつひとつが、自分を貫くこの男が愛しいと謳う。
なにより純粋で、穢れも、嘘も、偽りもない、幸福。
神よ。
アナタは、この幸福を否定するのか?
こんなに、キレイなものを?
アナタの楽園の掟は、人の本能を否定する。
このプリミティブな幸福を。
始まりの男と女が犯した罪は、人に生まれながらの罪を持たせた。
けれど。
深く抉られ、揺さぶられ、壊れるほどの快感に、自分とひとつになった目の前の愛しい男と離れるまいと、自分の体の内に息づくサイファーをきつく締めつけながら。
スコールは、見たことのない神に向かって宣言する。
始まりの男と女が犯し、それ故に人が生まれながらに持つという原罪が、相手を欲するこのプリミティブな衝動ならば。
自分は、原罪を背負わせてくれた始まりの男と女に感謝する。
そして。
本当に人を欲するこの想いを罪だと言って。
プラトニック・ラブなんてキレイゴトを強制する楽園なんて、願い下げだ。
神よ。
アナタは可哀相な存在だ。
こんな純粋な幸福を、知らないなんて。
アナタはアナタの作った小さな園で、綺麗事ばかりの世界を護っていればいい。
そんな楽園は俺たちには、要らない。