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FINAL FANTASY 10

ティーダメインのノーマル話。
…ほんとはアーティのつもりで書き始めたけど書き上がったら掛け算要素がなくなってたという(汗)


約束 [20010729]
 ティーダとアーロン。消え逝く前に交わした約束。

旅の終わり [20010819]
 ティーダ。大嫌いで大好きな父へ。

Cry for the Moon [20011229]
 ティーダとアーロン。同人誌「いつか終わる夢」より再録。「約束」と微妙に連動。

Cry for the Moon




 願い事って、叶わないと知ってても願ってしまうものなのかな。


 空が高い。
遺跡の街で寝転がって見る夜空は、高くて広くて、蒼くて。
星がたくさん見えて、月がすごく大きくて綺麗だ。
オレの知ってたこの街で見る夜空は、イルミネーションで霞んで、月も星も見えなかった。
でもそれがオレにとっては自然で、好きだった。色んな光、音、思い思いのカッコしたヤツら。雑多で、静かな場所なんてないエネルギーに満ちた街だった。
 こんな、ひっそりと寂しい遺跡になっちまうなんて誰が思っただろう。
さっき、夢を見た。
懐かしいこの街の、自分の家に帰った。
・・・夢、なんだって。
オレって存在も全部、夢なんだって。千年前のスピラに存在したザナルカンドの人たちが、祈り子になって見続けてる夢。
オレの記憶も、なにもかも。
・・・んな話、あるかよ。
オレは、生きてるのに。
こうやって、寝転がって空を見て、風を感じて、草を掴んで。
夢だなんて、片付けられてたまるかよ。
でもなんか、すごく不安なんだ。自分が何者なのかわからなくなった気がして。
まだユウナを死なせずに済む方法も考えついてないってのに、こんなんじゃ余計頭ン中グチャグチャになっちまう。
 お願いだ、これ以上オレを混乱させないでくれ。そんなに許容量ないんだ。知らない世界に飛ばされて、訳わかんないままバケモノと戦って、シンはオヤジだって言われて、シン倒すにはユウナが死ななきゃいけないって知って。今度はオレが祈り子の夢だなんて言われても、オレには何がなんだかわかんないよ。
 スピラの人たちは、本当によく祈る。
オレの知ってるザナルカンドじゃ、宗教とか、なかったから。
オレには最初スピラの人たちのその感覚がよくわからなかったけど。
今になってようやく少しわかった気がする。
 目の前に突きつけられたものがあまりにも残酷で、強大で。自分に何ができるのかわかんなくなるから。
だから、祈るんだ。
オレは、スピラの民じゃないから、同じように祈りはしないけど。
でも思えばスピラに来てからずっと、オレは何かを願ってた。
帰りたい、とか。
シンを倒したい、とか。
ここ最近はずっと、ユウナを助けたいって。
どれも、どうすればいいのかわかんないものばっかりだ。どうやったら、ユウナを死なせずにシンを倒してザナルカンドに帰れるのか。考えても考えても、全然いい方法が浮かばない。このままじゃ、明日にはユウナは最後の祈り子のところで究極召喚を手に入れちまう。こんなとこでウダウダしてる場合じゃないってのに、オレは夢だとか言われて・・・。
 見上げた空にはデカい月が浮かんでる。気づかなかったけど、きっと、オレのザナルカンドにも浮かんでた月。
なあ、お願いだ。これ以上訳わかんないのはやめてくれ。ユウナを助ける方法を思いつかせてくれ。それと・・・。
それと、もし本当にオレが祈り子の夢だっていうんなら。
頼むよ。


オレを、消さないでくれ・・・。



 アーロンは、寝転んで月を眺めている少年の姿を見ていた。
少年の姿に、かつての親友の姿を思い出す。ジェクトもまた、ああやって悩んでいた。自分があやふやな存在であること、家族の許に帰れそうにないこと、守ってきたブラスカを死なせなければならないこと・・・。
 因果は、巡るのか。
究極召喚の道を選んだ男の娘は今また悲壮な決意を以って同じ道を辿ろうとし。
究極召喚獣となることを選んだ男の息子もまた、ガードとして同じ壁にぶつかっている。
そして、十年前、目の前の悲劇に何も出来なかった自分もまた、十年前と同じ光景を見ている。
 因果は巡り、死の螺旋は途切れることなく、悲劇は繰り返されるのか。
アーロンは、寝転ぶティーダの姿が視界に入る位置で近くの木に寄りかかると、前方に広がる遺跡の街を見遣った。
共に旅した男の言っていた故郷。千年前に滅んだ街の風景を嬉々として語る男の言葉をアーロンは信じていなかった。死人となって自らが迷い込むまでは。
ジェクトが語っていた通り、煌びやかで華やかで喧騒に満ちた街。シンの脅威に晒され続けたスピラには存在し得なかった屈託のない空気。その空気に触れて初めて、アーロンはジェクトがどれほどの想いを抱いていたのかを知った。帰りたいと願い続け、帰れないと諦めた場所。
そこで、男に託された少年と出会った。弱々しく涙腺の緩い頼りない子供。それでも、身勝手な父親への精一杯の意地で強く在ろうとしていた少年。
「ふん�・�・�・。」
酒瓶を煽りながらアーロンは視線を寝転んだままのティーダに戻した。
何をしているのか、まるで幼子がするように手を空に伸ばしたり引っ込めたりしている。
 その少年が今、この大陸の運命を変えるかもしれない。諦めの充満したこの土地で、そんなものの存在しない世界から来たが故に、諦めることを真っ向から拒否することのできるティーダは少しずつ、けれど確実に、諦めることに慣れた者たちに影響を与えている。それは勿論、ガードだけではなく、究極召喚を目指すユウナにも。
 彼らが明日、死の螺旋に囚われた者を前にして、どんな決断を下すのか。
十年前と同じことを繰り返そうとするのか、それとも何か別の道を行くのか。
アーロンは彼らの選択をギリギリまで見守ってやるつもりでいる。けれど、彼らが死の螺旋の道を選ぶのなら、全力を以ってそれを阻止する。
ブラスカもジェクトも、アーロンに「頼む」と言ったのだ。誰よりも愛しい、けれど親として、成長を見守ることのできなかった子供を。それは決してスピラの死の螺旋の犠牲にする為ではなかったはずだ。
「ふん�・�・�・。」
面白くなさそうにアーロンは再び酒を煽った。
悲劇を全力で阻止する覚悟はできている。しかし、アーロンには予感めいた確信があった。
彼らは、螺旋を断ち切り、スピラに新たな時代をもたらすだろう。
夢の街から来たジェクトがシンであり、その息子であるティーダもまたザナルカンドからスピラへと導かれガードとなった。
彼らだからこそ、螺旋を断ち切れる。諦めを知っているスピラの者では為し得ないことを、諦めを否定できるティーダなら、為し得るだろう。
・・・だが、それにはティーダに辛い決断を強いることになるが。
「本当に生きている世界」を実感させてやって欲しいと、ジェクトが言っている気がしてアーロンはティーダを夢のザナルカンドから現実のスピラへと連れ出した。その選択が間違っていたとは思わない。ジェクトは確かにティーダがスピラに来ることを、ガードとしてシンとなった自分を倒すことを望んだ。けれど、果たしてそれはティーダにとって幸せなことだったのか。
その答えは、今、月に向かって手を伸ばしている少年だけしかわからない。
「埒もない�・�・�・。」
アーロンは空になった酒瓶を不機嫌そうに見つめると、頭上に輝く月を見上げた。
願いなどするだけ無駄だ。十年前、嫌というほど思い知った。けれど。
願っていてやりたいと思うのだ。


せめて、いずれ消えゆく少年が自分の物語に納得できるように、と。

 いろんなことがあったなって、思い出す。
わけわかんないことだらけで、不安で。でも、ワッカにルールー、キマリ、リュック、それにユウナと出会って。アーロンにも再会して。一緒に旅して、戦って。
ザナルカンドとは全然違う風景。機械が禁じられてて不便で。
でも、気づいたらスピラのこと、好きになってた。
 ここの人たちはみんな、一生懸命だ。ちょっとでも幸せになろうって。召喚士とガードを犠牲にして成り立つ世界だったから、余計に。犠牲を無駄にしないよう、頑張ってた。
「ザナルカンド、案内できなくて、ゴメンな。」
みんなを連れて行きたいって。案内したいってホントに思ってたんだ。全部終わればそうできるって思ってた。まさか、自分が消えちまうなんて、思ってなかったからさ。
 ユウナが泣いてる。
ゴメンな。アーロン送るだけでもユウナにはツラかっただろうけど・・。オレのことも送って欲しい。
みんなと会えなくなるの、寂しいっス。これから新しい英雄にされて大変だろうユウナを支えてやれないの、悔しいっス。けど、オレの物語は、ここまでだから。
怖くないわけじゃない。生きてたいよ、みんなと一緒に。
でもさ、大丈夫。
アーロンがさ、待っててくれるって言ってたから。
とりあえず一人じゃないってちょっと安心、だろ。
あのオッサン、傍若無人だからさ、あんまり待たせるといなくなりそうだし。
そろそろ、行くよ。
・・・ゴメンな、ユウナ。
ユウナは強いから、きっとこれからも大丈夫だよ。新しいスピラを創っていける。
 ありがとう、みんな。元気でな。

オレは勢いよく、飛空挺のデッキからダイブした。







 スピラに来てから、オレはずっと何かを願ってた。
夜になって、みんな寝静まるといろんなことが頭ン中をグルグルして。
そんな時は外に出て、地面に寝転がって空を見てた。
澄んだ夜空にはデッカくて綺麗な月が出てて、星がたくさん見えて。
そんな月を見て、なんとなく、オレは願い事をしてた。
 体がスーッと空気に溶けてくような感覚を味わいながら、思い返す。
スピラに来てしばらくはずっと、帰りたいって。
遺跡のザナルカンドに行ってからは、消えたくないって。
 ああ、もうスピラの景色も視えなくなってきた・・・。
何度も何度も月に願い事して。
諦めたくなくて、認めたくなくて。
帰りたい。
消えたくない。
頑なに、願い続けてた。でも。
知ってた。
心のどっかで、オレはわかってたんだ。







月にする願い事は、叶うはずのない願いだって。


旅の終わり




 愛されてると思ったことなんてなかった。

記憶の中の男はいつも、ティーダをからかい、嫌なことしか言わなかった。

家にいることの方が稀で、そしてたまに家にいれば大好きな母親を独占していた。

 嫌い、大嫌い。

何度言っただろう。男はその度に苦笑いして肩を竦めていた。

 …今にして思えば、その顔にはいつだって、不器用な男の後悔が浮かんでいたのに。

「…バカだ、あんた」

オレもバカだけど。

淡い光を放ち今は何も映さないスフィアを前にしてティーダは呟く。

 息子に見せてやりてぇ。

そう言って旅の先々で記録されたスフィアには、男の不器用な愛情が溢れていた。

自分の知らなかった、「父親」の顔をした男。

「……バカだ」

 そんなに愛してくれていたのなら、それを見せてくれればよかったのに。

言葉がなくても、ただ、その大きな手で頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれればよかった。

 その掌で。温もりで伝わることだってたくさんあるのに。

そんなこともわからないなんて、なんて不器用な男なんだろう。

 けれど。

記憶の中の自分に構う男の眸にはいつだって、暖かい愛情が滲んでいた。

 言葉も温もりもなくても。視線だけで感じられることだってあるのに。

そんなことも気づかないなんて、なんて自分は鈍いんだろう。

「…ホント、バカだ」

 なにもかもが、もう遅い。

男は世界の脅威と成り果て、自分はそれを倒す旅の途中にある。

次に顔を合わせる時、それは永遠の別離に他ならない。

 それでも。

「………会いに、行く」

たとえ、男がもう父の記憶を失くしていたとしても。

自分を見ても、何も思い出せなくなっていたとしても。

 男は、他の誰でもない、息子である自分に殺されることを望んだから。

「待ってろよ、親父」

 殺し合いでしかなくても。それでも、そんな残酷な方法でも伝えられることはある。
 

 アンタの、息子でよかった、と。


約束




 「消えるって、一体どんなカンジなんだろうな」
ティーダがそんなことを呟いたのは、物凄い悲壮感があってのことではなかった。
一人になれば、自然そんな疑問も浮かぶ。壮絶な犠牲意識や使命感、悲壮な決意があるわけではないけれど、かといって何も考えずにいられる程脳天気でいるには、さすがにティーダに突きつけられた真実は重かった。
「やっぱ、すーっとしたりすんのかな」
「くだらんことを考えるな」
一人だと思っていたところに、低い声がかけられる。それに驚いて振りかえれば、すぐ傍に隻眼の男が立っていた。
「いきなり傍に立つなよなあ…」
「気づかないおまえに問題があるんだろう」
アーロンはにべもなくそう言うと、窓の外を眺めている。飛空挺の窓から流れる景色はスピラのもの。きっと、もう長く見ることはできない景色。ティーダにとっても、アーロンにとっても。
「ここって、あんたの故郷なんだよなぁ」
並んで景色を見ながら、ティーダは尋ねるでもなくそう言った。
「オレの故郷ってやっぱ、ザナルカンドでいいのかな。あー、でも故郷とか言っちゃうこと自体オカシイのかな。実体なんてないんだもんな。そうだよな、おかしいよなっ」
堰を切ったように、ティーダの口から取りとめもなく言葉が溢れてくる。無理もなかった。
たとえどんな存在であれ、十七歳の少年が受けとめるには大き過ぎる真実であることに変わりはない。
「考えても仕方のない事を考えるのはやめろと言っている」
「……オヤジ、まだいるよな」
ぽつりと、言葉が洩れた。
「ああ。ジェクトはおまえを待っている」
簡潔なアーロンの言葉にティーダは黙って頷くと、くるっとアーロンに向き直った。
「あんたも…終わったら消えちまうんだよな」
「ああ」
ふいに、ティーダの手がアーロンの頬に伸ばされ。
「やっぱ冷たいな、あんた。ホントに、死んでるんだ…」
そう言うティーダの声は微妙に震えていた。
「…泣くな。本当におまえは昔から…」
すぐに泣く。今は『シン』となった男が苦笑しいしい心配していたように。十年間、見守っていたその間にも、目の前の少年はどれだけ泣いたことだろう。そしてこれから、この少年はどれだけ泣くことができるのだろう。一度か、二度か。
「泣いてない�・�・っス」
無理矢理笑おうとするティーダを見遣ると、アーロンは片腕で少年を抱きこんだ。
「は、離せってっ!」
「俺は行く」
その言葉で、もがいていたティーダの動きがぴたっと止んだ。
「だが、おまえのことは待っていてやろう」
どこで、とは言わない。
「…うん」
おずおずとティーダの手がしがみつくようにアーロンの身体に回される。
「ヘンだな。アーロン、冷たいのに、あったかい…」
待っていてやる、と。一人で行かせたりはしない、と約束してくれた男の不思議な体温にティーダはくぐもった声で笑った。
「……ありがと」


それは、すべてが終わる前に交された約束。