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Dawn Valley 14. -50 years after-




 その日。
新聞の片隅に小さな記事が載った。
 人々の記憶の彼方に追いやられた、とある事件について。

『今から約50年前。センセーショナルな事件が起こった。
バラム・ガーデン殺人事件と呼ばれたその事件を記憶している読者も中にはいるだろう。
“伝説のSeeD”という言葉を記憶している読者なら多いはずだ。
 未来の魔女の脅威から世界を救った英雄。
それが“伝説のSeeD”である。
 事件は、その“伝説のSeeD”が、在籍していたバラム・ガーデンのクラスメートに殺害され、被害者の葬儀当日に加害者も自殺したというものである。
 被害者の名はスコール・レオンハート、加害者の名はサイファー・アルマシー。
多くの読者諸君は忘れてしまっていたであろう名だ。若い世代の読者には、忘れるどころか、元々知らないという者もいるだろうと思う。
実際、筆者自身も“伝説のSeeD”は知っていても、彼の名は知らない世代の人間だ。
 当時、この事件はあらゆるメディアで大きく取り上げられ、人々の関心を一手に集めた。
当然のことだろうと思う。日付を見れば、この事件が“未来の魔女大戦”から1年も経っていないうちに起こったことがわかる。
“伝説のSeeD”は現在よりももっと熱狂的に英雄として称えられていたであろうことは想像に難くない。
 では、何故、こんな事件が起こったのであろうか。
実は、これは最大の謎なのである。真相は全くの闇の中だ。当時もかなりの追及がなされ、様々な推測が飛び交ったようだが、関係者が一様に口を閉ざし、この事件を「魔女ハインの謎」と並ぶ最大のミステリにしてしまったのである。当時、どのような推測が飛び交ったのかはここでは割愛することとするが、興味を持った読者は自分で調べていただきたい。
 閑話休題。
 今回、筆者がこの事件に関心を抱いたのも、この謎に因る。
“伝説のSeeD”といえば、当時の世界最強の人物といっていいだろう。その彼が、不意であっとしても、何故易々とクラスメートに殺害されたのか。何故、サイファー・アルマシーはスコール・レオンハートを殺害したのか。更に何故、スコール・レオンハートの葬儀当日、サイファー・アルマシーは自殺したのか。そしてもう1つ。何故、関係者はみな、口を閉ざしたのか。
 この謎の1つでも解明できないかという気持ちから、筆者は存命する関係者に取材を試みた。
 当時秘密にせねばならなかったことでも、50年経った今なら明かすことが出来るかもしれない。そんな期待を込めて。
 結論から述べよう。
筆者にこの謎を解き明かすことは出来なかった。
ただ、この謎を解き明かす、ほんの小さな糸口だけは掴むことが出来た。
それにより、筆者はある1つの推測をたてることも出来た。
しかしながら、その糸口を辿ってその推測を証明することは筆者には無理なようだ。
 このような勿体ぶった書き方に読者諸君は業を煮やしていることだろう。
では、筆者が取材によって得た事実と推測を順番に説明しよう。
 まず、事実について。
実際のところ、筆者が掴んだのは事実と銘打つほどのものではない。
存命する関係者に取材してみたものの、彼らは一様に首を振った。
 「あの事件に関して、推測することはできても知っていることは何もない。自分が語ってよいことも、語るべきことも何もない。真実は、彼らだけが知っていればいいことだから。」
 これが、彼らの言い分である。彼らは事件の真相を全く知らないような表現をしたが、筆者の見た所、恐らく真相の一端は知っているのだろう。
しかし、その真相を沈黙の内側で守り通し、葬ることを堅く心に誓っているようだった。
 筆者も随分と食い下がってみたのだが、彼らの決意は強固で、残念ながら真相に近づく道は開けなかった。だが、唯一の収穫といってもいいコメントを1人の関係者から得ることができた。
 それは、筆者の「この事件が持ち去ったものともたらしたものがあるとすればそれは何か?」という質問に対する返答だった。その人はこう答えた。
 「いつか、人がもっと時間を重ねた先に、その答えがあるのかもしれない。」
これが、前述した、糸口である。では、筆者の推測を述べよう。
 まず、いくつかある謎の答えは、たった1つだと感じられた。つまり、サイファー・アルマシーがスコール・レオンハートを殺害した動機も、最強であったはずのスコール・レオンハートが易々と殺された理由も、サイファー・アルマシーが自殺した意味も、関係者が沈黙で守り通すものも、すべてがたった1つの真実を示すということである。そしてそれは、当時マスコミで騒がれたような、単純な諍いなどではなく、本人たちの感情や彼らを取り巻く環境が複雑に絡んだ結果なのだろう。更に、筆者が得た関係者の言葉から察する限り、サイファー・アルマシーもスコール・レオンハートも、互いに納得した上での行動だったのではないか。筆者にはそう思えてならない。
 筆者は糸口を掴んでもこの謎を解き明かすことは出来ないと書いた。それは何故かと問われれば、それは糸口として示した言葉の通りである。
この事件が持ち去ったものももたらしたものも、もっと時間が経てば見えてくるかもしれないという代物だ。このコメントを残してくれた関係者の口振りを考えると、その時間とは1年や2年のことではないのだろう。恐らく、筆者がこの事件がもたらしたものを見られるかどうか、ギリギリというのが正直なところなのではないかと考えられる。
 願わくば、いつか、偶然にでもこの記事を目にした未来の読者諸君の中に、この事件の持ち去ったものともたらしたものを突き止め、そこから得られた事実からこの謎の真相に近づくことの出来る者が現れることを、そして、その未来の探偵の出現にまだ筆者の時間が流れていることを期待して、この記事を締め括りたいと思う。』


to Dawn Valley 15. -the Witch.-