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ダイバーズウォッチ10選! 海やプールでガチ無双する夏に輝く時計たち。

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ダイバーズウォッチ10選! 海やプールでガチ無双する夏に輝く時計たち。
夏といえば何を思い浮かべるでしょうか?

海、花火、甲子園、かき氷……など、日本にはたくさんの夏の風物詩がありますよね。

腕時計における夏の風物詩(?)といえば、やはりダイバーズウォッチではないでしょうか。

ゴツッと逞しいルックスに、水っ気をものともしない屈強さは夏の腕元にピッタリですよね。

そこで今回は、インスタグラムの腕時計コピー 激安 代引きの投稿の中から見つけた、夏に映えるダイバーズウォッチ10選を今回と次回の2回に分けてお届けしようと思います。

ちなみに、ダイバーズウォッチって何?という方は、こちらのタフでかっこいい「ダイバーズウォッチ」の特徴と選ぶときの3つのポイントをご覧ください。ダイバーズウォッチについて体系的にわかりやすくまとめております。

それではいってみましょう!

1. チューダー ブラックベイ58
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ロレックスの兼価版ブランドとして1926年に生まれたチューダー。

その名前とかつてのバラのロゴは、イギリス国民に愛されるようにと、エリザベス女王を排出した名門チューダー家から来ています。

現在は兄貴分であるロレックスとは異なる独自路線を展開し、今や中価格帯の中心的ブランドともいえる存在にまで成長しています。

そんなチューダーの中でも高い人気を誇るのが、ダイバーズウォッチであるブラックベイ58。

その見た目や形は、ロレックスのサブマリーナーを踏襲しつつも、独自のデザインエッセンスを加えています。

他のダイバーズとは違う、どこかヴィンテージライクで親しみやすい雰囲気は他にはなかなかないものです。

数々の時計を見てきましたが、この価格帯で最も訴えるものがあったダイバーズウォッチの一つである事は間違いありません。

チューダーが日本に正式に展開されたのは2018年とかなり最近ですが、一部のモデルはプレミア化するなど、品質の高さからその人気はすでに鰻登りになっている今注目ブランドの一本です。

2. ブライトリング スーパーオーシャン・ヘリテージ
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ブライトリングといえば飛行機のパイロットのためのパイロットウォッチやクロノグラフという印象が強いかもしれませんが、実はダイバーズウォッチの最初期からダイバーズウォッチを作っているブランドでもあります。

ブライトリングの一世代前のロゴには翼と錨が描かれていましたが、これは1980年代頃、当時の会長CEOであるアーネスト・シュナイダー会長が、空だけではなく海の分野でもプロの計器を作るという表れでデザインしたものです。

ことからも海へのこだわりも並々ならぬものがあることがわかりますよね。

そんなブライトリングの歴史的ダイバーズウォッチの系譜に当たるのが、このスーパーオーシャン・ヘリテージです。

”ヘリテージ”を名前に冠する通り、メッシュブレスレットやリューズガード無し、ドーム型風防や筆記体で書かれたモデル名など、全体的にクラシカルなルックスをしていてお洒落ですよね。

一方で、綺麗に磨かれた鏡面仕上げのケースやセラミック製のベゼルなど、キラキラとエレガントで高級感のある仕上がりなので、夏の陽射しに映えること間違いなしです。

3. オメガ シーマスターダイバー300M
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ジェームズ・ボンドの時計としても名高いオメガのシーマスターシリーズ。

オメガのシーマスターが登場したのは1957年のことです。そこから様々な種類の派生モデルが誕生していますが、最もアイコニックで有名なのがこの「ダイバー300M」というシリーズではないかと思います。

ダイバー300Mシリーズは1993年に初登場し、2018年に3世代目となる現行機が誕生しました。

この新型シーマスターダイバー300Mは2018年にモデルチェンジを行ったのですが、偉大なる先代の後継機ということで世界的に大きな注目と称賛を集めた時計です。

まずぱっと見て印象的なのが、文字盤に掘り込まれた波模様ですよね。

これは初代シーマスター ダイバー300Mの波模様を復刻しており、ファンにはたまらないディティールとなっています。

また、ドットのインデックスや針など、どこを見ても気持ち良いほどにエッジが際立っており、ひと目で質の高さと高級感を感じ取ることができる仕上がりです。

外見もさることながら、この時計の本当に凄いところはムーブメントにあります。

コーアクシャルCal.8800は、マスタークロノメーターという新基準をクリアし、オーバーホールは8~10年に一度という長寿命を実現。耐磁性はMRIに入れても壊れないという程、時計界イチの圧倒的な強さを誇ります。

これほど充実した内容で、新品定価60万円程度で買うことができるというのは信じられません。

英国海軍採用から、深海探査、映画のスクリーンまで偉大な歴史を紡いできたシーマスター。

万人におすすめすることができる、ダイバーズウォッチ界のエース的な時計だと思います。

4. セイコー SBDC101
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1881年に創業されたSEIKO。

今では世界中に愛される偉大な日本の時計メーカーですが、特にセイコーのダイバーズウォッチは愛されものだと感じています(私自身、海外でセイコーのダイバーズウォッチをしていたら「良い時計だね」と声をかけられたことが複数回あります)。

セイコーのダイバーズウォッチの歴史は1965年から始まります。

世界初のダイバーズウォッチから遅れること12年、1965年にセイコーは日本初のダイバーズウォッチを完成させ、1966年から南極観測越冬隊の装備品として寄与します。

そこからエベレスト登頂や深度3000mの深海への帯同など、極限の環境への挑戦を続け進化してきました。

ここで紹介するSBDC101は、そんな数あるセイコーダイバーズウォッチの始祖である”ファーストダイバーズ”の復刻モデルです。

ダイバーズらしからぬシュッとしたスタイリッシュなルックスは、他と一線を画すかっこよさに仕上がっていると思います。

特に注目したいところは、ラグの中が横一線になっている点です。

ほとんどの時計はここがケースに合わせて湾曲しているのですが、このSBDC101は直線になっているので、ベルトをNATOストラップや革ベルトに変えてもケースとの間に隙間ができず、時計との一体感がずば抜けて高くなります。

つまりベルトの着せ替えがかっこよくキマる時計ということです。

値段も比較的良心的な価格なので、一本遊び用に買ってみても活躍する時計だと思います。

5. ロレックス サブマリーナー
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前半戦の最後はロレックスのサブマリーナーです。

やはりダイバーズウォッチを語る上では欠かせない存在でしょう。

ダイバーズウォッチのアイコンであり、原点にして頂点と名高い時計です。

1953年の初登場から、デザインはほぼ変わらず現在まで続いていおり、まさに永世定番。

世界中の男たちの憧れジェームズ・ボンドの時計としても有名です。

ロレックスの厳しい自社規格を通している為、精度はクロノメーター以上で、日差は驚異の+/-2秒以内。使用しているステンレス素材は904Lというもので、傷や錆に非常に強い特別な最高級ステンレスです。

大ぶりな時計が多いこのジャンルで、ケース径サイズ40mmとベストサイズなのも嬉しい点です。

歴史・ステータス・精度・頑丈さ・サイズ感・扱いやすさ・資産価値など、全ての項目で高得点を出せる時計は極めて稀な存在です。

サブマリーナーはまさしく、そのど真ん中を行く時計であり、今後もそれが崩れることはないでしょう。

ひっそりと触れた手に甘い想いを詰め込んで僕たちの足跡は交わることなく離れていく

 
 
 
 穏やかな、穏やかな、感情。
けれど、どこか小さな痛みを伴って。
 改札の向こうにあいつの姿を見つけたとき。
俺の隣りにも、あいつの隣りにも、それぞれの「愛すべき者」がいて。
無邪気に手を振り合っていた。
ゆっくりと改札を抜けて俺の前に立ったあいつに、「よぉ」と挨拶する。
 哀しいくらい、自然に。
今もまだ、胸の奥に燻り続ける何かがあるのに、それでも当たり前のように微笑んでる俺がいた。
 まだ、あの雨の日の記憶は鮮明に残ってるのに…。
 
 
 
 
 
 朝から曇っていた空は、午後になって静かに雨を落とし始めた。
傘を持っていなかった俺たちは、近くの喫茶店に飛び込み、向かい合って座りながら、何故か言葉を発せずにいた。
 いつもだったら。
いつもだったら、先刻解決してきた事件の話や、最近読んだ推理小説の話をしてとりとめもなくはしゃいでいるのに。
俺も服部も、心のどこかで感じていたのかもしれない。
お互いがお互いを想う、気持ちを。
 けれど。
その想いを口に出してはいけないことも、俺たちはわかっていたから。
 自分を待ってくれている大切な人がいる。お互いに。
それはかけがえのない存在。傷つけることなどできない存在。とてもとても大切な…。
でもそれは、今目の前にいる相手に感じるような、激しく切ない想いを感じる相手じゃない。
 言っちゃ、いけない。
 口に出したら、終わりだ。
言ってしまったら、止められなくなる。大切な人を、傷つける。
 服部はコーヒーを飲みながら、窓の外をじっと見ていた。
沈黙を誤魔化すためには、そうするのが一番よかったから。

 いつものように。
いつものように、事件の話をすれば、それでいいはずなのに。でも今、言葉を発しようとしたら、俺はきっと言ってしまう。
 おまえが、好きだって。そう、言ってしまう。
そしてたぶんそれは服部も同じで。
だから俺たちは、向かい合わせに座りながら、窓の外を見て。
口を開くどころか、お互いを見つめることさえ禁忌のようにコーヒーを飲んでいた。
 
 
 なんで、もっと早く出逢えなかったんだろう。
 そうしたら迷わずに言えたのに。
 今まで出逢った誰よりも、刺激のある存在。
 いつでも、未知の世界へ飛び出していけるような、唯一の存在。
 だけど。
 出逢う前に俺たちは。
 もう、それぞれの「安らげる場所」を選んでしまっていた。
 どこまでも、自分を受け入れてくれる存在を、選んでしまっていたんだ。
 
 
 カチャンと、カップを受けとめたソーサーが音をたてて、俺たちの意識を窓の外から逸らした。
ぼんやりと見ていた窓の外の、止みそうにない雨はそれでもだいぶ小降りになっていて。
「…行こか。」
ぽつりと、服部が言った。
 
 
 
 
 
 小雨の降りつづける中、急ぐでもなく俺たちは駅までの道を歩いた。
 言い出してしまいそうな衝動を堪えて。
この雨は、これから俺たちが戻るそれぞれの街にも降ってるんだろうかとぼんやり考えながら、気づけば駅の改札は目の前にあって。
「…。」
ここから、俺たちはそれぞれの街へ戻る。
服部は口を開きかけ…、結局何の言葉も吐き出せないまま俺を見た。
 この沈黙が、痛い。
この沈黙を、「好きだ」という言葉で打ち破りたい衝動が俺の中で渦巻いている。
すべてを捨てて目の前の相手の手を取れたら。
 けど。
結局俺たちは、俺たちを待っていてくれる存在を傷つけることなんかできなくて。
自分でもそうわかっているのに、言葉を告げたがる心は止まってくれなくて。
ちょっとでも気を抜けば、言葉を告げようとする。
 俺の心が、その沈黙に耐えられなくなったその時。
思わず口を開きかけたその瞬間、服部が、今日、初めてじっと俺を見つめて言った。
「…ほな、な。」
 それは、別れの言葉。
俺たちが、俺たち自身の想いに告げる、哀しい言葉。
 ずきずきと胸の奥が痛んで赤い涙を流すけど。
その時の俺には、もう、たった1つの言葉しか、口に出すことを許されてなかった。
 
 精一杯、普通に。
「…ああ。じゃあ、な。」
 
 
 
 
 
 「…元気か?」
「ああ。おまえは?」
「こっちも、別に変わらん。」
「そっか。」
久しぶりに会ったことにはしゃぐ蘭と和葉ちゃんの後を俺たちはゆっくりと歩いた。
 極々ありきたりな、どこにでもありふれた会話。
あの雨の日以来、俺たちが話すことは、事件のことだけだった。たまにする電話はすべて事件がらみで。
東京と大阪で離れているから会うこともなくて。
 事件について話すだけなら、俺たちは当たり前のように饒舌に話せた。
 だから、直接会ったとき、俺たちは普通に話すことができるだろうかと不安だった。
事件を間に挟まずに、俺たちは普通に接することができるんだろうかって。
 でも、ほら。
 こんなにも簡単に。こんなにも自然に。
並んで歩きながら話してる俺たちがいる。
 勿論、最近扱った事件のことも話すけど。でもそれだけじゃなくて。
学校はどうだとか、幼馴染にせがまれて一緒に恋愛モノの映画を見に行ったとか、そんな、他愛も無い話。
 あの雨の日以来、俺たちの間で途絶えていた、そんな普通の会話。
それを今、当たり前のように話してる俺たち。
 なんでだろう。
あの時の切なさは、まだ鮮明に残ってるのにな。
いや、残ってるなんてもんじゃない。まだ胸の奥で小さく燻ってるのに。
どうして、こんなにも自然に俺は話してるんだろう。
 なあ、服部。おまえも、そうなのか?
こうやって、俺と話すその笑顔の裏で、やっぱりおまえもそう思ってるのか?
 だって、あまりにも自然で。自然過ぎて。
俺たちは、あの時捨てるつもりでいた想いを、告げてしまってもいいんじゃないかって。
はしゃぐ彼女たちの手じゃなく、今こうして隣りを歩いてる相手の手を取ってもいいんじゃないかって。
 そう、錯覚してしまいそうになる。
そんなわけ、ないのにな…。
 でも、そんな微かな切なさと一緒に。
やっぱり俺を支配するのは穏やかな気持ち。
あの雨の日も今も、感じるこの切なさは嘘じゃないけど。
だけど、あの雨の日には感じなかった、この穏やかな気持ちも嘘じゃない。
 これが、時間なんだろう。
俺たちがこんなに自然に話すことができるのも、きっと、時間の所為。
 過ぎ去った分だけ。互いに距離を置いた分だけ。
 時間が。
あの時俺たちを支配していた切なさを、許容できるまでにした。
 それは、きっと、自然で、当たり前で。誰にだってあることで。
今こうやって、俺たちの前を歩いてる彼女たちだって。今この瞬間、擦れ違った見知らぬ誰かだって。一生擦れ違うこともなく、俺の知らないところで生きて、俺の知らないところで死んでいく誰かだって。
 痛みも、悲しみも、切なさも、愛しさも、喜びも。
全部、時間に委ねて生きている。
どんなに激しく自分を支配した感情も。時間の流れがいつのまにか、それを想い出に変えてゆく。
 激しかった想いを、哀しいほど、穏やかな想いに変えていく。
………鮮明に残る胸の痛みすら、どこか懐かしく感じるほど。
 結局、あの時、互いの手を取ることを選べなかった……選ばなかった俺たちは、今更あの想いを告げられるような激しさを持っているわけもなかったんだ。
 人を想うことに。想いを告げることに。
 資格なんてものがあるとしたら。
俺たちは、互いに想いを告げる資格を、あの雨の日に、自分から放棄したんだ。
 みんな、すべてを時間に委ねて生きているのなら。
あの時、彼女たちじゃなく、互いの手を取ったって、構わなかったはずなのに。
その一瞬、彼女たちを深く傷つけたとしても、それは時間の流れとともに癒されて、いつか許されるはずだったのに。
 それでも彼女たちを傷つけることを怖がった俺たちには。
 きっと最初から、今の道しかなかったんだと思う。
 
 
 
 「ほなな。」
あの時と同じ、別れの言葉。
「ああ。」
別れの挨拶なんて、それだけで終わってしまう。他に話すことも見つからなくて。
言葉豊かに別れを惜しむ彼女たちを、俺たちはぼんやりと見ていた。
 電車の発車を知らせるベルが鳴り響く。
 これが、永遠の別れなわけじゃない。いつだって、会おうと思えば会えるのに。
何故か、ふ、とあの雨の日の切なさがこみ上げてくる。
 和葉ちゃんが先に電車に乗りこみ、続いて服部が乗りこもうとした瞬間。
衝動的に、俺は服部の手に触れた。
そっと、触れるだけ。蘭にも、和葉ちゃんにも見えていなかっただろう。
 指先が触れた、その一点に。すべてを託して。
服部も、ただ一度だけ、指先でトン、と俺の手に触れ返す。
「じゃあな。」
その言葉とともに、電車の扉が閉まる。
そうして、俺たちは離れていく。
 
 
 
 
 
 ただ1度だけ触れた手。それだけが、俺たちの想いの証。
 
 
 
 
 

カナリヤ




 アナタにとって一番大切な構成要素を失ったアナタは、アナタなのでしょうか。



 記憶障害なんてものは、思ったよりも簡単に起こるらしい。
自分が想像する「記憶喪失」は、例えばありふれた日常の中、突然の電話で近しい人が事故に遭ったと聞き、慌てて病院に駆けつけて病室のドアを開けると頭に包帯を巻いたその人が「どなたですか?」なんて尋ねたりして、呆然とする自分の横で医者がそっと首を振り「奇跡的に怪我自体は大したことないんですが、事故で頭を強打したらしく、記憶に障害がでています」などと言う、ドラマなんかでよく見る光景。それが記憶喪失だと思っていた。
 けれど実際は、事故なんかに遭わなくても、もっと簡単に障害がでてしまうものだったようだ。
 ベッドから落ちた。ただ、それだけ。
たったそれだけのことで、工藤新一は記憶を失った。
決してベッドが高い位置にあったわけでもない。落下距離はせいぜい五十センチ。そもそも、寝相は恐ろしくいいはずの新一がベッドから落ちたという事自体、俄かには信じ難かったが状況はそれしか考えられなかった。
 朝、いつまでも起きてこない同居人の様子を覗きに行って見ると、ベッドの脇に座りこんで呆然とこちらを見返す新一がいた。
 彼はドアを開けた平次をしばらく凝視した後、真剣な顔をしてこう言った。
「悪いんだけどさ、訊いてもいい?ここ、どこ?」



 最初は性質の悪い冗談だと思った。
けれど、そうではないとわかった時の衝撃は大きかった。
 自分の足元が砂のように崩れ去っていく、そんな感覚。
目の前にいるのは、工藤新一であって工藤新一ではない者。
新一は、自分の名前も両親のことも平次のことも大切な幼馴染みのことも、小学生としての生活を余儀なくされた事件のことも、すべてを忘れてしまっていた。
 それでも、一日ニ日もすれば元に戻るだろうと思っていた。
元に戻って、「…迷惑かけて悪かったな。」と誠意の欠片もない声で言ってくれると思っていた。
 しかし。工藤新一が記憶障害に陥ってから一週間。
相変わらず工藤新一は「工藤新一であってそうでない者」のままだ。
あの工藤新一とは思えない程従順な彼。
甲斐甲斐しく世話を焼く平次に、素直に「ごめん」と言う。
「そんなん、気にせんといてや。覚えとらんかもしれんけどここは工藤の家で、俺は下宿させてもろてる身なんやから。」
そう言って笑う自分が、滑稽だった。



 記憶をどこかに置いてきた工藤新一は、推理をしない。
平次にとって、なにより辛かったのはそれだった。
 今の新一に、あの真実を射抜く眸は、ない。
記憶を失ったからといって、知能が下がったわけでもない。相変わらず新一の頭の回転は素晴らしく良かったし、冷静な洞察力だって健在だった。
 それでも。
今の新一の中では、その頭脳も洞察力も、推理には結びつかないのだ。
 新一が記憶障害に陥ってからは、専ら平次が新一の代わりに警視庁に協力することとなっていた。幸い、難事件という程のものは起こらず、平次が現場に出向かなくとも電話で概要を聞けば解決できた。
「平次って、すごいんだな。」
簡単なアリバイトリックの存在を看破して容疑者を一人に絞り、話を尋くよう伝えて電話を切ると、後ろにいた新一が心底感心したように言った。
 記憶を失くした新一は平次のことを名前で呼ぶ。
たったそれだけのことなのに、呼ばれる度に心臓が痛い。
自分の知る「工藤新一」はいないのだと思い知らされるようで。
「こんなん、すごいうちに入らんわ。ちょっと考えればわかるよって。」
「でもやっぱすげーよ。俺にはさっぱりだ。」
無邪気に言う彼に、平次が焦がれて止まなかった「東の名探偵」の面影は、ない。
 「工藤新一」を語る上で、最も大切なキーワード。それが推理、だったのに。
「そないなこと、言わんといてや。」
 工藤新一の顔で。工藤新一の声で。
工藤新一のすべてを否定するような言葉を紡がないで欲しい。
「平次…?」
思わず口をついた科白に、新一が首を傾げる。
「あ、ああ、すまん。なんでもないんや。ヘンなこと言うて悪かったな。」
慌てて謝り、安心させるように笑顔を向けた。
 彼に言っても、仕方の無いことなのだ。
彼は工藤新一であって工藤新一ではない者。
工藤新一がどんな人間なのか、知る術のない者。
 工藤新一という名前と体を持った、全くの別人だと考えるのが一番だ。
今の新一に「工藤新一」らしい思考や言動、振舞を求めても酷なだけ。
 けれど。
「工藤新一」を求めて止まない想いは、どこに行けばいいのだろう。



 夜中にそっと、新一の部屋を覗いてみる。
ベッドサイドに立っても、新一は起きる素振りを見せない。
 以前なら、こんなことは有り得なかった。
人の気配に敏感な新一は、ベッドサイドに立つ程近づけば、余程体調が悪くない限り、確実に目を覚ましていたはずだ。
 こんな所にも「工藤新一」の不在を感じて胸が痛む。
このベッドで、新一の隣りで、眠ることの方が多かったのに。
「なんで、忘れたん…?」
誰も答えてくれない問い掛け。
答えを知っている唯一の人は、今、この世界のどこにもいない。
「…どこに、行ってしもたん?工藤…。」
こうして、夜中にそっと、眠る彼に向かって答える声のない問い掛けをする自分をどうしようもなく惨めで滑稽で女々しく思うのに、それでも止められない。
 新一の記憶が確実に戻る保障があるのなら、いつまでだって平次は待つだろう。
新一に対する平次の想いは、ちょっとやそっとの時が流れたくらいで屈するような、そんなヤワなものではない。けれど。
 新一の記憶は、戻らない可能性だってあるのだ。
それが、平次の心を弱くさせる。
 このまま、「工藤新一」は消えてしまう、という不安が。



 新一が記憶障害に陥ってから三週間。
一見それまでと変わらない日常が、「工藤新一」不在のまま繰り返されていく。
幸い、大学が長期休暇の真っ最中の為、新一の記憶がないことによるトラブルは起こらずに済んでいる。尤も、この長期休暇が終わるまでに新一の記憶が戻らなければ面倒な事態が起こることは目に見えていたが。
「平次ってさ、なんで探偵になったんだ?」
新一がそんなことを訊いてきたのは、目暮警部の依頼で事件を解決して帰って来た、蒸し暑い夜だった。
 少々難解な殺人事件。さすがに電話で状況を聞いただけではどうしようもなくて、久々に現場へ出向いて推理した。容疑者の話の小さな矛盾に気づいてアリバイを崩し、その他の証言から密室と思われた殺人現場がほんのニ、三分ずつ、ニ度に渡って出入りが可能であったことを立証して見せて犯人の自供に持ち込んだ。
 被害者はつい最近脳梗塞で倒れ、命に別状はなかったものの言語中枢に障害が残ってしまったラジオのDJ。加害者は、その妻。
 彼女は様々な事後処理を済ませたら自首するつもりだったという。
殺害を自供した後、目暮警部に動機を問われた彼女は静かに微笑んでこう言った。
「だって、あの人にはDJが天職だったんですもの。あの人にとって話すことがあの人の存在意義だったの。それを失くしてしまったら、あの人はもう、あの人じゃないでしょう。 唄えなくなったカナリヤは、死んでしまうしか道がないもの。」
 その科白は、平次の胸に深く突き刺さった。
涙を流すこともなく、淡々と、哀しげな微笑を浮かべた彼女が、自分に重なって見えてどうしようもなかった。
 それ以上その場にいることが、彼女を見ることが辛くて、馴染みの刑事たちへの挨拶もそこそこに、平次は逃げるように帰って来たのだった。
 少し蒼冷めた顔で帰って来た平次を見て、何も知らない新一が、探偵というものを余程辛いものなのだと思うのも仕方のないことかもしれない。
「なんで、そんなツラそうにしてまで、探偵なんてやってんの?」
 その質問に平次は瞠目した。
 「工藤新一」だったら、そんなこと、絶対に訊かない。
真実を射抜く眸を持った彼は、何故探偵をしているかなんて疑問は持たない。
 新一も、平次も、探偵だから謎を解いているわけじゃない。
そこに、隠された真実があるから、その真実を見つけているだけだ。
それは、真実を射抜く眸を持った者だけがわかる、真実。
「ははは…。工藤にそないなこと訊かれる日が来るなんて思てへんかったわ。」
乾いた笑いで胸の内の絶望をごまかして、平次は新一の方へ向きなおった。
 新一は、平次をじっと見ていた。
一瞬、記憶が戻ったのでは?と思うほど、以前の彼とよく似た眼差しで。
「・・・そんなに、『工藤新一』がいい?」
静かに、新一はそう問いかけた。
「工藤…?」
「記憶が戻るかどうかなんてわかんないのに。これから、ずっと『俺』が『工藤新一』かもしれないのに。みんな『俺』を代用品みたいに見る。おまえも、ぱっと見、親切に俺の世話焼いてくれてても、いつだって俺を見る時は『俺』の向こうの『工藤新一』を捜そうとして必死な眼だ。」
 まるで、犯人に推理を披露するかのような。
「工藤新一」の眼で、平次にそう告げる彼の声には、いっそ「工藤新一」に対する憎悪すら隠されていて。冷たく平次の胸を切り裂いた。
「……。」
 何か言葉を返さなければと思って口を開いても、言うべき言葉は平次の中のどこにも見つからない。
その様子に新一は、酷く哀しげに微笑った。
「………。『工藤新一』は、名探偵なんだって、蘭ちゃんが教えてくれたよ。推理となると他の一切が見えなくなる推理バカなんだってさ。『工藤新一』っていうパーソナリティーを語るとき、絶対に必要なキーワードが『推理』なんだろ?」
「…工藤?」
話の流れが読めず、平次はやっとの思いで新一を呼んだ。
「それでさ、彼女、こう言ったんだ。『新一はどうしようもない推理バカだけど、でも新一にとって大事なのは推理することじゃない。不当に隠された真実をきちんと見つけ出してあげることが大切なの。新一は、真実を見つけ出す眸を持った人だから』って。」
 記憶を失った新一に、そう『工藤新一』を語ってみせた幼馴染だという彼女。
話しながら自分を見る彼女の眼はとても遠くて。『工藤新一』の姿を語ることで、自分の中の奥深くに埋もれた『本当の工藤新一』を揺り起こそうとするかのようだった。
「工藤新一は俺なのに、誰も『俺』を見ようとはしないんだ。いつも、『俺』の中の誰かを探してる。」
 それは仕方のないことなのだと、新一にもわかっている。
けれど、記憶を持たない自分もまた、『工藤新一』であることに変わりはないのだ。
周囲が自分の中の『本当の』工藤新一を探そうとすればするほど、『偽物』にされた自分の心は悲鳴をあげる。
 それなのに。
「でもさ、いいんだ、別に。だって、仕方ないよな、ホントのことなんだから。」
先程まで冷たい憎悪を宿していた眸が急に力を失くした。
 自分がどんなに主張したところで、「工藤新一」が記憶喪失に陥り、その結果自分という新たなパーソナリティーが出てきたことは否定しようのない事実。覆しようがない。
「…だけど、俺は。」
 怖いくらい静かな声に平次の体に緊張が走った。
何も言えずにただ黙って見つめていた平次に新一は射抜くような視線を向ける。
「俺は、推理なんて、しない。」
その瞬間、平次は反射的に耳を塞ごうとする自分の手を必死で抑えた。
 それは、まるで死刑宣告のようで。
 何より最も聞きたくない科白だった。
「おまえらの探してる『工藤新一』なんて、どこにもいない。今、『工藤新一』は俺なんだ。『推理』がおまえらの探す『工藤新一』のキーワードなんだとしたら、俺は、絶対にそんなことしない。」
 痛い、と平次は感じた。
それは言葉で、決して直接危害を加えられたわけでもないのに、なのにはっきりと痛みを感じた。
 呼吸さえ止まってしまうと思うほどの痛み。
怒りと哀しみとが縒って心臓を締めつけているように感じるけれど、しかしその怒りと哀しみが、一体誰に対して、何に対してなのかははっきりとしない。平次がわかるのは、ただ、痛みと、真っ直ぐに自分を射抜く新一の眸だけ。
 きつく自分を見つめる新一の視線に耐えられず、平次は階段を駆け上がって自室に逃げ込んだ。
 ……「逃げる」という表現以外に有り得ないほど、新一の眸と科白に平次は追い詰められていた。



 自室のドアに背を預けて、平次は呆然と宙を見つめていた。
頭の中で考えがまとまらない。
「何逃げとんねん、俺は…。」
あそこで逃げたところで何の解決にもならないと理解できるのに、それでも新一と顔を合わせているのが怖かった。
 これ以上、新一自身の口から「工藤新一」を否定する科白を聞くのが怖かった。
 誰より愛しい相手の顔で、声で。
 愛しいその人自身を否定される。
それがこんなにも、辛いなんて。
「なんや俺、自分が信じられなくなってきよった…。」
辛いだけならよかった。
痛みに耐えれば済むのならそれでよかった。
 けれど。
自分の中に渦巻く感情は、それだけではなくて。
その激しい感情の波に、驚愕し。
 平次はぎゅっと自分を抱き締めた。



 そして同じように。
新一もまた、自室のベッドで仰向けになり、ぼんやりと宙を見つめていた。
「バカバカしい…。」
 あんなこと、言うつもりなんてなかった。
なのに一度口を突いて出てきた言葉は、自分でも止める事ができないほどエスカレートした。
その根底にあるものはただひとつ。
 「工藤新一」への、嫉妬。
傍から見ればきっと、不可解に違いない。自分に嫉妬するなんて。
けれど、記憶というピースを失った自分は、それ以前の自分とは別人格なのだ。
きっと、土台は一緒なのだろうに。思考パターンや物の感じ方だって、そう変わりはないのだろうに。
 それでも。
記憶というたったひとつの。そして、最大のピースを失った自分は、平次の求める「工藤新一」ではないのだ。
 それがこんなにも悔しいなんて。
「…バカバカしい。」
 何故、自分は平次の求める「工藤新一」ではないのだと、気づいてしまったんだろう。
気づかなければ、もっとラクだったのに。
 何も知らないまま、気づかないまま日々を過ごして、いつか、記憶を取り戻し。
この体を、「工藤新一」に返して。
そうして、何も気づかないまま自分は消えていけたなら、こんな想いに煩わされることもなかったのに。
 熱帯夜で、眠りの浅かった真夜中。
 ベッドサイドに立って自分の顔を見つめている平次の気配に目を覚ましてしまった。
 眩しい程明るく笑う彼が、弱々しく頼りなげに眠る自分に問い掛けた言葉を聞いてしまった。
 「…どこに、行ってしもたん?工藤…。」
耳について離れない、その言葉。
「ここ、だよ。平次…。」
そっと、胸を押えた。
ぼんやりと答えを口にしてみても。
 その声は、誰にも届かないまま宙に消えた。



 明りもつけず真っ暗な部屋の中で、ドアに凭れて座りこんでいた平次は、虚ろな眼をして立ち上がった。
 ふらふらと廊下を歩き、新一の部屋の前で立ち止まる。

「俺は、推理なんて、しない。」
そう言って、「工藤新一」を否定した彼。

「唄えなくなったカナリヤは、死んでしまうしか道がないもの。」
そう言って静かに微笑んだ彼女。

 頭の中で何度も何度もリフレインする、科白。
 「工藤新一」を否定されたとき。
 怒りと哀しみの後に平次を襲ったのは、強烈な殺意だった。
誰よりも何よりも大切な人を、奪った相手。その体の奥深くに「工藤新一」を閉じ込めてしまった者。それが、平次から見た、今の新一だった。
 そんな風に考えることが、いかに理不尽で身勝手なことか、平次にもよくわかっている。否、わかっていた。けれど。
新一が記憶喪失に陥って以来、ずっと心の底に沈殿し続けていた感情が、あの否定の科白で一気に浮上してしまった。
 普段だったら、それでも平次がここまで理不尽な感情に支配されることなどなかったのかもしれない。しかし、昼間解決した事件の犯人の言葉が、ずっと脳裏にたゆたっていた今の平次の理性の歯止めは、意味を成さないほど弛んでいた。
 
 
 推理を。真実を射抜くことを忘れた、否定した新一は、唄えなくなったカナリヤと同じ。
 存在意義を失った者が生きていたところで、一体誰が幸福になれるというのだろう。
 姿に変わりがないだけ、それは本人も、まわりの人間も不幸にする。
 いっそ、消えてしまっていた方が、どんなにかラクだっただろう。
 そうすれば、誰も傷つかなくて済むのだから。
 
 いっそ、消えてしまえば。




 
 ベッドの上に寝転び、そのまま新一は眠ってしまったようだった。静かに寝息をたてるその顔を、じっと見つめる。
 こうしていると、変わらないのに。
「…けど、違う。」
そっと、眠る相手の首に両手をかけた。
少しずつ、少しずつ、両手に力を込めていく。
抵抗のない体を死に至らしめるのは簡単なこと。
 ゆっくりと、けれど確実に力の込められていく手に、眠る新一の表情も少しずつ苦痛を見せ始める。
あまりの息苦しさに新一が目を覚ました時には、きっともう手遅れになっているだろう。
 それで、いい。
それで、工藤新一であってそうでない者は消える。もう、平次や他の人間が自分を見ないことに苛立ち傷つくこともない。周囲の人間が、同じ姿でありながら同じ人物ではない彼を見て哀しみに囚われることも、ない。
 そうして「工藤新一」は、永久に、消えるのだ。
還る器を失って。二度と、平次の前に現れることはない。
あの眸も、声も、体温の低い指先から感じる不思議な暖かさも。
何もかもが幻のように消え失せて、彼のいない世界が平次を包むだろう。
 そう。工藤新一の、いない世界が。
「んく…っ。」
思うように呼吸の出来ない苦しさから、眠ったままの新一が小さく呻き声をあげた。
 瞬間、両手に込められた力が弛む。
はっとして、もう一度両手に力を込めようとし、虚ろだった平次の顔が見る間に歪んだ。
 苦痛を耐えて泣きそうにも見える表情。
そして、平次は新一の首にかけていた両手を力なく外した。
「…できるわけ、ないやないか、工藤。」
新一のいない世界でどうしろというのだ。
「工藤新一」だけが、平次と同じ目線を共有できるのに。
その彼の戻る場所を、奪うことなど、できるわけない。
「工藤…。還ってきて…。」
そっと、眠る新一の肩口に顔を埋めて囁く。
「はよ、思い出してや…。」
 自分が誰なのかを。自分の存在意義を確立する、あの真実を射抜く眸を。
 そして、その目線で見た世界を、唯一共有できる相手のことを。
「おまえ居らんようになったら、俺、めっちゃ寂しゅうて敵わんわ…。」
体を起こし、入ってきたときと同じように静かに部屋のドアを開ける。
廊下に出てドアを閉める直前、ぽつりと言った。
 切実な。偽りなど一点もない、心からの願い。
 
 
「俺を…。独りぼっちにせんといて…。工藤。」


 
 
 
 平次の足音が、自室へ消えると、それまで新一の部屋に響いていた静かな寝息がぴたりと止まった。
眠っていたはずの新一が目蓋を開く。
「平次のばーか…。」
少し痛みの残る首を摩りながら呟く。
 いっそ、殺してくれればよかったのに。
 そうすれば、全部奪って逝けたのに。
 平次から、「工藤新一」を。そして、「工藤新一」から、平次を。
「…平次のばーか。」
もう一度、同じ言葉を呟いて、寝返りを打つ。
「…ほんとに、バカだよ…。」
誰が、とも何が、とも言わず、新一は目蓋を閉じた。




 
 翌朝。
いつまで経っても新一は起きて来なかった。
昨日あんなことがあったばかりでは顔を合わせづらいのはお互い様だが、時計の針が昼を指し示す頃になっても、姿を見せない新一を心配して平次が部屋を覗いてみると、そこには誰もいない。だいぶ前に起きだしていたようだった。
外に行ったのかと思って玄関を見てみるが、靴は全部揃っていて、そういうわけでもないらしい。
 なんとなく胸騒ぎがして家の中をあちこち捜してみても、新一の気配はどこにもなかった。
「どこ行きよったんや、工藤のヤツ…。」
どこか捜し忘れている場所はないかと、この家の間取り図を頭に思い浮かべる。
そうして一箇所だけ捜していない場所を見つけた。
 2階の廊下の突き当たり。一見戸棚のような扉の先にある細い階段を昇ったところにある、屋根裏部屋。
「遅かったな、平次。」
案の定、新一は屋根裏部屋にいた。
その様子に平次は眉を顰める。
「そないなとこに座っとったら危ないで。」
古くなった脚立の途中に座る新一にそう言うと、新一は静かに笑って首を振った。
「いいんだよ。」
 何かが違う、と平次の中で警鐘が鳴る。
新一は、何かしようとしている。けれど、何をしようとしているのか見当がつかない。
「平次があんまり寂しがるから、さ。返してあげようと思って。」
まるで悪戯でも仕掛けているような。そんな無邪気な笑顔で新一はそう言った。
「工藤…?」
「ホントはさ、返すつもりなんて全然なかったんだけどな。」
そっと、自分の首を摩りながら言う新一に、平次はその言葉の意味を覚る。
「工藤、目ぇ覚ましとったんやな…?」
「殺してくれても、よかったのに。」
穏やかな笑顔でそう言って、新一は立ちあがった。
 古びた脚立はそれだけの振動でも不安定に揺れる。
「でも、おまえにこの体を殺せるわけもなかったよな。」
言いながら、脚立を登る。
 以前は書庫で使われていたというその脚立は、平次の肩くらいの高さがあって、その分不安定だ。更に古くなっている分その不安定に拍車がかかっている。
「工藤、何する気や?」
「だから、俺が自分で壊そうかとも思った。でも、平次はすごく寂しそうだしさ。」
平次の問いに答える気はないらしい。
その間にも、新一は一段一段ゆっくり脚立に足をかけ、一番上の段に腰掛けた。
「どうしようかと考えて、賭けてみようって決めたんだ。「工藤新一」諸共この体が壊れるか、俺が消えるかどっちかだと思うけど。一応、俺は返すつもりではいるよ。そうならなくても、許してくれよな。」
「工藤、止めとき。」
 静止の言葉を投げ掛けて、古びた脚立に必要以上の振動を与えないようそっと歩を進めた平次が、脚立の傍まで行って新一を見上げた瞬間、新一は平次の肩をぐっと引き寄せた。
 そうして、腰掛けたまま、上半身を屈めて平次に口づける。
「…っ!?」
 何が起こったかわからず呆けた平次を離すと、新一は脚立の上に勢いよく立ちあがった。
「バイバイ。俺も、平次のこと好きだったよ。きっと、『工藤新一』とおんなじくらいに。」
「工藤っ!」
 ぐらぐらと揺れる脚立を止めようと、平次が手を伸ばした瞬間。
脚立の止め具が外れて一気に崩れる。と、同時に上に立っていた新一の体も投げ出された。
「くどぉっ!」
 受け身を取る気のない体は重く鈍い音をたてて床に転がった。
慌てて抱き起こすと、打ち身くらいで特に大きな外傷は見当たらないものの、計画通りにとでも言うべきなのか、頭を打って意識を失ったらしかった。
「ホンマに…記憶なくしても無茶しよるなぁ…。そんなトコはなぁんも変わっとらんのやな、工藤…。」
 意識のない体をぎゅっと抱き締める。
「アホやなぁ…。俺かて、『工藤新一』の次くらいには、好きやったで?」
 ちょお、1位と2位の差は大きかったのは事実やけどな。そんなことを呟いて、平次は笑った。
こんな無茶なことをした『新一』を。そんな無茶なことをさせる程追い詰められていた自分を。
そして誰より、記憶喪失なんてバカなことをして自分たちをこんなに苦しくさせた『工藤』を。




 
 自分と殆ど体格の違わない、意識のない体を運ぶのはかなりの苦労を要したが、それでもなんとか新一の体をベッドに横たえると、ベッドサイドに椅子を引っ張ってきて座り、新一の顔を眺めた。
「はよ、起きや。」
 もしかしたら目覚めてもまだ、記憶を失ったままの可能性だって勿論承知していたけれど。
 それでも、自分は、「平次に返す」と笑って言ってくれた彼を信じる。
彼が「返す」と言った以上、きっと、新一は還ってくる。
「はよ起きんと、これから毎朝レーズンパンにしてまうぞ?」
「…そんなことしてみろ。この家追い出すからな。」
 目を閉じたまま、返された声。
「工藤?」
覗きこんだ平次の前で、すっと新一が目蓋を上げた。そして、帰還の挨拶を告げる。
「よぉ、服部。」
三週間ぶりに、新一の声で、苗字を呼ばれた。
「ほんまに、工藤なんやな?」
「バーロォ、ったりめーだろーが。」
あまりに嬉しくて、何を言っていいのかわからなくなる。
どうしようもなくて、何も言わずに抱きついた。
「服部ぃ、こっちは全身打撲の怪我人なんだ。ちったぁ遠慮しろ。」
「…もう、戻ってこないかと思うた。」
「悪かったな、迷惑かけて。」
 少しも悪かったなんて思っていなさそうな口調があまりに新一らしくて笑った。
「もう、ええわ。」
 こうやって、思い出してくれたのだから、それでいい。
 独りぼっちにならずに済んだのだから、それで充分だ。
「あ、せやけど、ひとつ、訊きたかってん。」
「んー?なんだよ?」
「工藤、おまえ、なんでベッドから落ちたりしたん?」
「あー、それか・・・。」
 気難しい顔をして宙を睨んだあと、新一は照れくさそうに白状した。
「らしくねーんだけどよ。夢見たんだ。」
「夢?」
「そ。おまえと俺が、遠くに引き離される夢。で、飛び起きちまってさ。慌ててたんだな。ベッドから降りようとしたトコでシーツに足引っ掛けたんだ。」
「アホやなあ。」
「るせー。」
なんとなく、離れ難くてじゃれ合っていると電話のベルが鳴り響く。
しばらく無視してみるが、ベルが鳴り止む気配は一向にない。
「ったく、なんだってんだよ…。」
仕方なく平次が電話に出ると、聞き慣れた目暮警部の声がした。
手短に話を済ませて電話を切ると、平次は新一に向かって今切ったばかりの電話を振って見せる。
「目暮警部はんからや。密室殺人やって。どうする?全身打撲で調子悪いんなら、俺一人で行って来ても別に構へんけど?」
 その科白に全身打撲の怪我人のはずの新一が、勢いよく起きあがった。
「バーロ。俺が行かなくてどーするってんだよ。」
 予想通りの反応に平次は声を立てて笑った。
「ホンマ、それでこそ工藤や。」


 
 唄を忘れたカナリヤを、殺してしまってはなんにもならない。
いつかカナリヤは、自分の唄を思い出すから。

 
 
 推理するその表情。真実を射抜く眸。それこそがアナタがアナタたる所以。


forgive




 愛することの証明が、自分のすべてを曝け出すことなのだとしたら。
自分は、かの愛しい人を、本当に愛してはいないのだろうか。
 けれど、彼を愛する自分も真実。彼には言えないもう1つの顔も真実。
「愛しているからといって、それが自分のすべてを相手に委ねることにはならない。」
これは、詭弁だろうか。

 怪盗と、探偵。
何故、自分たちは、こんな因果な関係なんだろう。
何故、普通の高校生ではないんだろう。
「もしも」を言えばキリがない。
けれど、自分が「月下の奇術師」とまで言われる怪盗で、彼が「西の名探偵」と呼ばれる探偵であるのは、紛れも無い現実。
 相反する存在。
 追う者と追われる者。
でも、こんなにも、愛しい。

 誕生日に欲しいものは?と訊かれて、何も要らないと答えた。
ただ、一緒にいて欲しいと望み。彼は望む通りに、一緒にいた。
 別に、普段と変わらない1日。
住む場所が遠く離れている所為で滅多に逢えないけれど、それ以外は特に変わらない時間。
 ただ、2人で同じ時間を過ごす。
「なあ…。ホンマに、なんも要らんの?」
誕生日が、他の日と変わることなく終わろうとするのを咎めて、平次はそう訊いた。
「いいよ。こうやって、平次と一緒にいられれば、それで。」
この日、何度と無く繰り返された問いに笑い、快斗はその度に同じ答えを返す。
「…ホンマに?」
その日繰り返された問いの答えに、初めて平次が念を押した。
「ホントだっ…て」
読んでいた雑誌から目を離し、そう答えようとして、一瞬、詰まる。
 彼は、じっと快斗を見ていた。
 それは、真実を見つける者の眼。
快斗が白い衣装に身を包み対峙するときに見せる眼にも似た、偽りのいらえを許さない眸。
「ホンマのこと、言ってはくれんの?」
静かに問う声に、そっと嘆息する。
 本当は、1つだけ、欲しいものがある。
決して手に入らないものだと、わかっているけれど。
「俺には、快斗が欲しいと思うもの、なんもあげられへんの?」
「そんなことないって。」
 自分が、今、何より欲しいものは、平次がくれなければ意味がない。
 けれど、彼にすべてを話す勇気はない。
「なんでも、ええから。快斗が欲しいもの、言うたって?」
そう言う彼の声があまりにも優しくて。
 儚い幻想でも、見たくなる。
 少しだけ自分を、甘やかしたくなる。
「じゃあ……。1つだけ、お願いがあるんだけど。」
「うん?」
 立ち上がり、向かいのソファに座った平次の足元に跪く。
「何も訊かないで、ただ一言だけ。『許す』って、言って欲しいんだ。」
「快斗??」
予想外の願い事に、驚いて名を呼べば、快斗の真剣な眼差しとぶつかる。
 真摯な、哀しい眼差し。どこか殉教者を思わせるような、眸。
快斗が自分に言えない秘密を抱えていることを、随分前から平次はわかっていたから。
 その一言で、快斗の心が少しでも癒されるのなら。
 躊躇うことなく、その言葉を口にしよう。
じっと、見つめる眼差しを、真っ直ぐに見つめ返す。


「俺は、おまえを、許す。」


 一瞬の、沈黙。
「……ありがとう。」
静かにそっと、彼の体を抱き締める。
 これが、甘い夢に過ぎないことは、よくわかっている。
 それでも。
 たとえ、偽りの許しであったとしても、今この瞬間、自分の心は深く癒された。
 いつか。
 いつか、白い怪盗の役目を果たす時まで。
 今の一言で、自分はその時まで、耐えていける。
 それまではどうか。
 こうやって、騙されていて。
 

 その時がきたら。
 きっと、すべてを曝け出し、きみに、本当の許しを乞うから。


cigarette




 タバコを美味いと思ったことは1度もない。
勿論、銘柄の美味い・不味いの差はわかるけれど、タバコというもの自体を美味いものだと思ったことはただの1度もなかった。
だから、吸うときは吸うし、吸わないときは何ヶ月だって吸わないでいられる。
タバコを吸うようになったのは、確か中学3年の夏。ちょっとした興味だった。別に大人の真似をしようだとか、少し悪ぶってみようだとか、そんな気持ちはさらさらなかった。
単純な、興味。「ヤミツキ」というものを実感してみたくて、結局それは失敗に終わる。
「初めてタバコ吸ったのって、おまえ、いつ?」
まるで昼メロのようだ、などと思いながら新一はベッドの上で紫煙を燻らせ、隣りで枕に突っ伏している平次に聞いてみる。
「…なんや、突然。」
気のせいではなく平次の声が掠れているのは先程までの行為の名残だろう。
「いや、なんとなく。」
本当に他意はなかったので、そのままを答えると、平次は態勢を仰向けに変えて天井を見上げて答えた。
「あんま正確には覚えとらんけど…、確か、中1の終わりやったかなあ…。まあ、そん時は1回吸っただけやったけどな。吸い始めたのは高校入ってからやな。」
吸い始めた、といっても平次はタバコを常習しているようには見えない。どうやら、平次も新一と同じく、禁煙に苦労するタイプではないようだった。
「どないしたん?」
「べっつに、深い意味なんてねーよ。」
短くなったタバコを灰皿に押しつけ、新一はおもむろに平次にキスを送る。
「…タバコくさい。」
「嫌か?」
至近距離で言葉を交しながら、新一の手は緩やかに、けれど明確な意図を持って平次の体の上を滑りはじめた。
「ん~、嫌やない。」
鎮まりかけた熱を揺り起こそうとする手に、平次は敏感に身を竦ませながら笑った。
「また、するん?」
新一の髪をくしゃっと掴んで確認してみる。
「嫌か?」
口の端を僅かにあげて先程と同じセリフで問い返せば、褐色の肌の恋人は、ゆるゆると笑って首を振った。
「ん…、嫌やない。」
繰り返されたセリフに、新一は満足そうに笑うと、もう1度、今度は深いキスを送った。
 タバコはヤミツキになるものだという。
癖になって手放せないものだという。
だとすれば。
“工藤新一のタバコは、服部平次に他ならない。”
タバコに手をのばすたび。
新一はそんなことをひっそりと思う。