記事一覧

Dawn Valley 11. -Laguna.2.-




 人間って不思議だなあ。
悲しいこととか、辛いこととか、知らない間にちょっとずつちょっとずつ、記憶の底に沈んでいくんだ。
 もうダメだ、もう立ち直れないって、その時どんなに強く思っていたとしても、月日が過ぎて日常に埋もれていくうちに、気づけば、他愛ないことで笑えるようになってる自分がいる。
 それを、忘却って言うんだろうかって思ったことも、昔あったけど。
でも、忘れたりは、しないから。絶対に、忘れたりしないから。
これは忘却なんかじゃないって思ったんだ。
 忘却っていうのは、記憶の中から消し去ってしまうことだろ?
でもこれは、記憶の底に沈めておくだけだからな。ふ、とした時に簡単に浮かびあがってくるから。
 でももしかしたら。
それさえも罪なんだろうかって。
不安になったこともあった。
 今こうしてるように、おまえたちのことを思い出して。
思い出すってことは、普段は心の中にいないってことで。
あんなにも、俺にとって大きな存在だったはずなのに、それを思い出さなきゃいけない程、普段心の中に置いてない俺って薄情者なのかなあ、なんてぼんやり思ったりして。
 あんなにも哀しかったのに。あんなにも切なかったのに。
あの時の自分の気持ちさえ、ホンモノじゃなかったのかもしれないなんて、落ちこんじまったりして。
 でもな。
でも、それが、生きてる者の日常なんだって、今は思ってるよ。
なあ、スコール?それで、いいんだよな?
 今までも、今も、これからも、ずっと。
俺にとって、おまえはホントに大切な存在だけどさ。でも、同じ世界にいないことも、否定しようのない現実だから。
だから、俺は俺の現実を生きていく。いつか、おまえとまた、同じ世界にいられるようになる日まで。
 土産話とか、いっぱいあるぞ。まあ、土産って言うのかわかんないけどな。
おまえたちは、見てるのかな。俺たちが、こうやって自分の時間を必死に生きてる姿を。
 みんな、元気でやってるよ。
おまえたちがいなくなって、いろいろ問題も持ち上がったりしたけどさ。でもなんとか、頑張ってる。
 俺は相変わらず、大統領なんて言われて結構長い任期務めてんのにさ、こないだキロスのヤツが「ラグナ君はいつまで経っても貫禄ってものが身につかないようだね」とか、しみじみ呟きやがってさ。ったく、悪かったな、貫禄なくて!
 他のヤツらも、いろいろ変わったトコも相変わらずなトコもあって。
 キスティスな、結婚したぜ?俺が結婚式のスピーチをバッチリ決めてやろうと思ったんだけどさ、にっこり笑って断られちまった。
 ゼルなんかもう、父親だってさ。かっわいい女のコなんだよ、子供。今から娘が悪い男に引っかかるんじゃないかって心配してんだぜ。
 アーヴァインとセルフィは、なんだかんだ言ってうまく付き合ってるらしい。まあ、結婚なんてものにはまだ道程は遠そうだけどな。
そうそう、セルフィはな、今でも俺のこと、「ラグナさま」って呼んでくれるんだぜ?いいコだよなあ。
 あと、風神と雷神。あいつらも、相変わらず、いいコンビだよ。ちゃんと、サイファーの仲間で在り続けてる。
サイファー、ホントにいい仲間持ったんだな。
 リノアは。
元気だぜ。ますますジュリアに似てきてなあ。会うたんびにさ、ちょっと昔に戻った気分になるんだよ。
ティンバーももうすぐ完全に独立できそうだ。だいぶ前から、自治区になってたんだけどさ、今度カーウェイさんがガルバディアの大統領に就任してな、多分話が早くまとまるんじゃないかな。

 ……なあ。
おまえたちは、元気か?…いや、「元気?」なんて聞くのはヘンだな。
どうやって聞けばいいのか、わかんないんだけどさ。やっぱり、「元気か?」
伝説のSeeDだとか、魔女の騎士だとか、そんなもの、なんにも関係のない世界に。
おまえたちが何の荷物も持たなくていい世界に、いるんだよな?
 こんなこと言うとさ、サイファーはともかく、超現実主義なスコールには「死んだらそれで終わり」とか言われそうだけどさ。でも、やっぱり、おまえだって、この世界の全てを超越した世界を、信じてたんだろ?だから、サイファーと一緒に、そっちに行くことを選んだんだよな?
 答えてくれなくても…いいから。
おまえたちは、すべてから解放されて、お互いのことだけを考えて、こことは違う世界に、いる。
 俺は、そう信じてるよ。そう信じて、いつか、おまえたちとまた、逢うことができるよう、願いながら。
いつか、今度こそ、スコールに、俺がおまえの父親なんだって、言えるように祈りながら。
 俺の現実を生きて行く。


きっと、いつの日か。
みんなが、それぞれの荷物を置いて、微笑える時が来ることを、信じて。
それで、いいんだよな?サイファー。
そうだよな?スコール。


to Dawn Valley 12. -Seifer-