ここは、とても、自由だ。
自分の好きなことだけを考えていられる。
わずらわしい冠詞も、もう、ない。
こんなに自由な気持ちになるのは、どれくらいぶりだろう?
ヘンだな。
そんなに大して時間は過ぎ去ってないのに。
なのに。なんだか、とても昔のことみたいだ。
暗闇が、優しい。
すべてを包んで。俺の視界から消し去ってくれる。
ここには、なにも、ない。誰も、いない。
少し、寂しい…な。
なあ。サイファー。
俺たち、いろんな重荷から逃げようと、必死になってたよな。
もしかしたら、自分の気持ちからも逃げようとしてたのかもしれない。
俺は、アンタの気持ちに応えたくて。自分の気持ちが邪魔だった。
こうやって、すべてから解放されてみると、なんだかすごく滑稽な気がするけど、でも。あの時は、それで必死だった。
「振り返って見ると、すべてが懐かしく大したことなく見える。」
使い古された言葉でも、それが真実だと思う。
“伝説のSeeD”なんて大層な呼ばれ方は、確かに重荷だった。
その呼称と一緒になって俺に押し寄せてくる期待や思い込みも、苦痛でしかなかった。
だけど、そんな呼ばれ方をされるに至った行動を、俺は後悔してない。
サイファー。
あんただって、後悔してないだろ?
あの頃の俺たちは、何もわからずに、考えずに、ただ、自分ができることだけを、精一杯やってた。
結局、その行動の果てに俺につけられた冠詞が、俺たちに最後の選択をさせたのだとしても。
それ以前とそれ以後の自分を比べたら、あの時の行動を、後悔なんてできない。
ここは、寂しい。
でも、昔の俺は、それが寂しさなんだと理解することもできなかった。
寂しいと思えないから、何をしたいのか、どうすればいいのかわからなくて、ただ苛立って、諦めた。
今は違う。
寂しいと、感じられる。だから自分が何を求めているかもわかる。どうすればいいかも、知ってる。だから。
サイファー。
あんたを待ってる。
小さな頃。俺は待ってるのが嫌いだった。
待っても待っても、会いたい人が現れないことを、知っていたから。
でも、今は違う。
あんたは来る。そう、確信できる。
何の約束も、しなかったけれど。
あの時のサイファーの眼、好きだと思った。ただ、それだけだ。
すべてを捨てて、俺だけを見た眼。
世界のことも、みんなのことも、そして俺の気持ちさえも、捨てて。
ただ、俺を欲しいと、訴えた眼。
初めて。
何の遠慮も、偽りもなく、サイファーがサイファー自身の気持ちだけを俺にぶつけた。
「愛してる。」
あんたは何も言わなかった。でも、俺にははっきりと聞こえた。
だから。
俺は応えた。すべてを捨てた。
サイファーが、欲しい。
その気持ちだけを、残して。
「わかってる。」
俺も何も言わなかった。でも、あんたには聞こえたはずだ。
早く、来い。…いや、急がなくても、いい。
どっちだ、って怒鳴られそうだな。
でも、どっちも本当の気持ちだ。
サイファー。あんたのガラじゃないかもしれないが。
俺に、孤独が寂しいということを教えてくれた人たちに挨拶くらいしてきてくれよ。
こうやって、勝手に結論を出してしまった俺たちを、それでも責めないで許してくれるだろう優しい人たちに。
俺たちよりも、幸せな生と死が訪れてくれるといいと、心から祈る。
ここは、自由で、暗闇が優しい。
でも、いい加減寂しいんだ。一人だから。
サイファー。
ここは、暗くて何も見えないから。だから、来る時は、ちゃんと、俺がすぐにわかるように来てくれ。
サイファー。
早く、あんたに逢いたいんだ。
優しい暗闇が支配するこの場所に。
射し込む暖かい色の光。
眩しくて、懐かしくて、暖かくて。
ああ。待ってたんだ、サイファー。
寂しさを溶かす、光。
少しずつ、少しずつ。
この場所を照らし出してゆく。
まるで。
夜明けの谷のように。
to Dawn Valley 14. -50 years after-