スコール。スコール。スコール。
たった一人の名前をこんなにも狂おしく感じるなんてな。
俺たちは、ずっと足掻いてた。
それは、俺たちが大人になれないでいた所為なのかもしれないし、おまえに無責任な重圧がかけられていた所為かもしれない。
もしかしたら、もっと上手く生きていく方法だってあったのかもしれない。
けどわかってるのは。
所詮俺たちは現実に妥協できないガキでしかなかったってことだ。
そして。
俺にとって、おまえが。おまえだけが。
世界のすべてに勝ってたってことだけだ。
でもよ。
それで、充分じゃねえか?
こう思うまでには随分時間かかっちまったけどな。
けど、そう思えた瞬間、それまで足掻いて苦しんできたすべてのことが嘘のように消えてなくなった。
結局、人間なんてそんなもんなんだろう。
すべてのものに優先順位があって。それはもうどうしようもねえ。なのに、優先順位をつけてるってコトがすげえ卑しく感じられて。
それを認めたくなくて足掻いて。
けどな。優先順位をつけちまうのは、本能みたいなもんだ。そうしなきゃ、生きてなんか行けねえ。
それを認めたとき。俺は、あらゆるものを捨てようと決めた。いや、そう思った瞬間に、俺はすべてを捨てたんだろう。
ただ一人、おまえだけを手に入れるために。
優先順位を認めちまえば、それは怖いくらい簡単なことだった。
スコール。おまえだけが、欲しかった。
おまえだけを手に入れたかった。他のすべてを捨てても。
もしかしたら。
普通だったら、それでおまえを手にいれることができたのかもしれない。俺がすべてを捨ててしまう決意さえすれば、それでよかったのかもしれない。
だけど、俺たちは。普通の域にはいることができなかった。特にスコール。おまえはな。
おまえは、この世界で最も特別な人間の一人だった。
望む望まないに関係なく、それは紛れもない事実だった。
だから。
俺がすべてを捨てても。おまえが、どんなにすべてを捨てようとしても。
後から後からおまえには負わされるもものがあって。
おまえがおまえである限り…。おまえが、「スコール・レオンハート」である限り。そして。「スコール・レオンハート」が"伝説のSeeD"である限り。
それは絶えることがなかった。絶えることのないということを、俺たちは知っていた。
自分たちが、いかにガキかって思い知らされたのはその後だ。
俺たちは、妥協できなかった。大人に。なれなかった。
どうにかして、この理不尽な重責から、悪意のない過剰な期待から、逃れられるんじゃないかと足掻いた。
結局は、無理な話だったけどな。
そう、最初から。無駄だとわかっていながら、俺たちは足掻いていたのかもしれない。
捨てようと決めたすべてのものから自由になるために足掻いた。
だけどよ。その、すべてってのは、生半可なモンじゃねえ。
その、とてつもなく大きいものに足掻くんだったら、本当に、なりふり構わず足掻くんじゃなきゃ、そこから自由になるなんて到底無理な話だった。
けどな。できなかった。
すべてを捨てるのは怖くなかった。足掻くことに迷いもなかった。
でも、おまえを傷つけるかもしれない恐怖は、拭えなかった。
傷つけ、られなかった。
癒せると。知っていても、どうしても出来なかった。
それが、俺の限界だったってわけだ。
それが限界で、もう、道なんてなかった。
世間は。
俺の行動を狂気の沙汰だと言ってる。
あの時の俺は確かに、狂気を孕んでいたのかもしれねぇ。
だとしたら、俺は、俺自身の「正気」も含めて、すべてを捨て去れたってことだろう。
でもよ。
あの時も、それ以前も、今も。
おまえだけを欲するこの気持ちだけは変わらない。
こうしている瞬間も、体中が、おまえを求めて叫んでる。
スコール。スコール。スコール。
あの時。
俺がおまえのガンブレードを向けた時に見せたおまえの静かな笑顔は、俺にこの4日間を耐え抜く決意をさせた。
おまえは、わかってくれている。
そう確信できたからこそ、俺はおまえより少しだけ長く、この世界に留まろうと思った。
おまえのいない、この世界にいようと思った。
どんな事情でも、俺が、おまえを、おまえを大切に思い、おまえが大切に思っていた相手から奪ったのは、事実だからな。
だからその相手には会っておくべきだと思った。
リノアとは、顔合わせただけだけどな。あいつ、俺の顔見るなり頷いて、それだけで部屋から出ていきやがった。…いい、女になったよな、あいつ。
ラグナとは、さっき少し話した。でも顔は見てない。わかって、くれてたよ、話さなくても。さすが、俺の憧れた魔女の騎士ってとこだな。
外で、鐘がなってる。
スコール。おまえを、過去の偉人にする合図だ。
俺も、もうそろそろ、おまえに逢いに行く。
おまえなしで過ごすのは4日が限度だな。これ以上は、耐え切れねぇよ。
ちゃんと、出迎えろよ、スコール。
なんせ、おまえはもう、4日もそっちにいるんだ。道にも慣れただろ。
歓迎のキスのひとつもしてくれよな。
スコール。スコール。スコール。
---------------------------------愛してる。
to Dawn Valley 13. -Dawn Valley-