「消えるって、一体どんなカンジなんだろうな」
ティーダがそんなことを呟いたのは、物凄い悲壮感があってのことではなかった。
一人になれば、自然そんな疑問も浮かぶ。壮絶な犠牲意識や使命感、悲壮な決意があるわけではないけれど、かといって何も考えずにいられる程脳天気でいるには、さすがにティーダに突きつけられた真実は重かった。
「やっぱ、すーっとしたりすんのかな」
「くだらんことを考えるな」
一人だと思っていたところに、低い声がかけられる。それに驚いて振りかえれば、すぐ傍に隻眼の男が立っていた。
「いきなり傍に立つなよなあ…」
「気づかないおまえに問題があるんだろう」
アーロンはにべもなくそう言うと、窓の外を眺めている。飛空挺の窓から流れる景色はスピラのもの。きっと、もう長く見ることはできない景色。ティーダにとっても、アーロンにとっても。
「ここって、あんたの故郷なんだよなぁ」
並んで景色を見ながら、ティーダは尋ねるでもなくそう言った。
「オレの故郷ってやっぱ、ザナルカンドでいいのかな。あー、でも故郷とか言っちゃうこと自体オカシイのかな。実体なんてないんだもんな。そうだよな、おかしいよなっ」
堰を切ったように、ティーダの口から取りとめもなく言葉が溢れてくる。無理もなかった。
たとえどんな存在であれ、十七歳の少年が受けとめるには大き過ぎる真実であることに変わりはない。
「考えても仕方のない事を考えるのはやめろと言っている」
「……オヤジ、まだいるよな」
ぽつりと、言葉が洩れた。
「ああ。ジェクトはおまえを待っている」
簡潔なアーロンの言葉にティーダは黙って頷くと、くるっとアーロンに向き直った。
「あんたも…終わったら消えちまうんだよな」
「ああ」
ふいに、ティーダの手がアーロンの頬に伸ばされ。
「やっぱ冷たいな、あんた。ホントに、死んでるんだ…」
そう言うティーダの声は微妙に震えていた。
「…泣くな。本当におまえは昔から…」
すぐに泣く。今は『シン』となった男が苦笑しいしい心配していたように。十年間、見守っていたその間にも、目の前の少年はどれだけ泣いたことだろう。そしてこれから、この少年はどれだけ泣くことができるのだろう。一度か、二度か。
「泣いてない�・�・っス」
無理矢理笑おうとするティーダを見遣ると、アーロンは片腕で少年を抱きこんだ。
「は、離せってっ!」
「俺は行く」
その言葉で、もがいていたティーダの動きがぴたっと止んだ。
「だが、おまえのことは待っていてやろう」
どこで、とは言わない。
「…うん」
おずおずとティーダの手がしがみつくようにアーロンの身体に回される。
「ヘンだな。アーロン、冷たいのに、あったかい…」
待っていてやる、と。一人で行かせたりはしない、と約束してくれた男の不思議な体温にティーダはくぐもった声で笑った。
「……ありがと」
それは、すべてが終わる前に交された約束。