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cigarette




 タバコを美味いと思ったことは1度もない。
勿論、銘柄の美味い・不味いの差はわかるけれど、タバコというもの自体を美味いものだと思ったことはただの1度もなかった。
だから、吸うときは吸うし、吸わないときは何ヶ月だって吸わないでいられる。
タバコを吸うようになったのは、確か中学3年の夏。ちょっとした興味だった。別に大人の真似をしようだとか、少し悪ぶってみようだとか、そんな気持ちはさらさらなかった。
単純な、興味。「ヤミツキ」というものを実感してみたくて、結局それは失敗に終わる。
「初めてタバコ吸ったのって、おまえ、いつ?」
まるで昼メロのようだ、などと思いながら新一はベッドの上で紫煙を燻らせ、隣りで枕に突っ伏している平次に聞いてみる。
「…なんや、突然。」
気のせいではなく平次の声が掠れているのは先程までの行為の名残だろう。
「いや、なんとなく。」
本当に他意はなかったので、そのままを答えると、平次は態勢を仰向けに変えて天井を見上げて答えた。
「あんま正確には覚えとらんけど…、確か、中1の終わりやったかなあ…。まあ、そん時は1回吸っただけやったけどな。吸い始めたのは高校入ってからやな。」
吸い始めた、といっても平次はタバコを常習しているようには見えない。どうやら、平次も新一と同じく、禁煙に苦労するタイプではないようだった。
「どないしたん?」
「べっつに、深い意味なんてねーよ。」
短くなったタバコを灰皿に押しつけ、新一はおもむろに平次にキスを送る。
「…タバコくさい。」
「嫌か?」
至近距離で言葉を交しながら、新一の手は緩やかに、けれど明確な意図を持って平次の体の上を滑りはじめた。
「ん~、嫌やない。」
鎮まりかけた熱を揺り起こそうとする手に、平次は敏感に身を竦ませながら笑った。
「また、するん?」
新一の髪をくしゃっと掴んで確認してみる。
「嫌か?」
口の端を僅かにあげて先程と同じセリフで問い返せば、褐色の肌の恋人は、ゆるゆると笑って首を振った。
「ん…、嫌やない。」
繰り返されたセリフに、新一は満足そうに笑うと、もう1度、今度は深いキスを送った。
 タバコはヤミツキになるものだという。
癖になって手放せないものだという。
だとすれば。
“工藤新一のタバコは、服部平次に他ならない。”
タバコに手をのばすたび。
新一はそんなことをひっそりと思う。