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 それを愛と呼ぶには、あまりにも殺伐とした感情だと思う。
愛というものが、どれだけ自分を癒してくれたか、オレは知ってる。
 独占欲。
それが一番近い言葉か。
オレに愛を教えてくれた女に感じたような、彼女とよく似た女に感じるような。
そんな、無条件に守りたいと思う感情じゃなく。
 逆に、傷つけたいとすら思う、その強烈な感情。
仲間のフリをしていたときも、敵として対峙したときも。それは確実にオレの中に存在して。
それを感じ取っていたのか、それとも別の理由からなのか、アイツもまた、オレを激しく意識していた。
それはやっぱり、好意なんかじゃない。たぶん、アイツの戦闘能力の高さ故の本能的な危険察知だったんだろう。事実、アイツは最初から最後までオレを完全には信用しなかった。
 だから、こうして、今も。
アイツのオレを見る眼は、他の連中とは比べものにならない程醒めてるが。
突き放すような冷たい光は、確かにオレだけを見つめてる。
誰よりも正確に、オレを捉え、そして射抜く。
 ひとつ、教えてやろうか。
アンタは連中の誰よりも、オレを信用してないが。
オレは連中の誰よりも、アンタを信用してるぜ?
 記憶のないオレにアイツは正確に事実を伝えた。コイツならそうすると、記憶もないくせに無条件に確信できる程には、オレはアイツを信じてる。
 腹立たしいことにオレを無理矢理目覚めさせた、黒い力に支配されてる時ですら。奥底に閉じ込められた意識はそれでもアイツを感じてた。
迷いなく向けられた剣に。容赦なく射抜く視線に。
笑い出したいくらい、感じた。
愛である必要なんかない。
あの男の眸に。記憶に。心に。
消えない痕を灼きつけられればそれでいい。
 わかってるか?
今この瞬間、オレの思考のすべてを支配してるのは他ならぬアンタなんだぜ?
自分が消えようとしている今、オレは真正面に立つ女じゃなく、ただオマエのことだけを考えてる。
 勘違いするなよ。これは愛情なんかじゃない。
オレ自身を飲み込んでしまいそうな程に膨れ上がった独占欲。
その欲望の赴くまま、オレはオマエに消えることのない傷をつける。
別にオレは、後生大事に想い出を抱えていて欲しいわけじゃねぇ。
そんなもの、こっちから願い下げだ。
オレが欲しいのは、アンタがどんなに必死になって消そうとしても、どんなにみっともなく足掻いても、決して消えることのない傷痕。
どんなに時が経っても、忘れ去ることのできない痛み。
オマエがオレをどう思おうと知ったことじゃない。
憎んでくれた方がいいくらいだ。その分、オレがつけた傷痕が深くなる。
 さあ、オレを見ろ。
オマエの目の前で消えていく、オレの姿を。一瞬たりとも眼を逸らさずに。
オレのどんな些細な動きも見逃すな。
消え去る最後の瞬間。声など出さず。本当に微かな動きで。
鋭く冷たいオマエの視線を心地よく感じながら。
オマエに消えない傷痕を残す為。
オレはその名を口にしよう。

 オスカー、と。