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 聖殿の廊下を歩いていたら、頭上から花瓶が落ちて来た。
階上で掃除をしていたメイドが蒼褪めた顔で「申し訳御座いません」と連発したが、特に怪我もない。粉々に割れた花瓶を一瞥するとそのまま歩き去った。

 昼食に出てきたヴィシソワーズを食べていたら、中に砂利が入っていた。
シェフが慌てて飛んできて、テーブルに額を打ち付けんばかりに謝ったが、別に食べたところで死ぬものでもなし、砂利を捨てると、そのまま食べ続けた。

 午後の惰眠を貪ろうと横になったら、何かが窓を派手に壊して飛んできた。
「おっ、わりぃわりぃ」と言いながらゼフェルがメカチュピを回収しに来たが、割れたガラスには見向きもせずに去っていった。…特に寝るのに問題ない。

 さて、眠ろうかと思ったら、叩き壊さんばかりに元気に扉が開かれた。
「すみません、ゼフェルがまたメカチュピ暴走させたって聞いて」と明るく爽やかにランディがやってきて、勝手に色々話しながらガラスを片付けていった。…何故ランディ?

 今度こそ眠ろうと眼を閉じたら、いきなり何かに突かれた。
「ダメだよ、チュピったら!」そう言いながらマルセルが入ってきて、「ごめんなさい。お詫びに…」と花を飾っていった。…どうやら小鳥に突かれたらしい。

 なんだか眠る気が削がれた…と思っていたら、ポロン、とハープの音がした。
「午後の音楽を奏でに参りました」とリュミエールが言うので、丁度いいかと一曲頼んだ。結局リュミエールは五曲奏でていった。…しかしいつの間に来たのだろう。

 再び襲ってきた睡魔に身を委ねようとしたら、視覚的目覚ましがやってきた。
「ちょっとー、この石見てくんない~?」とオリヴィエが持ってきた宝石を鑑てやると、お礼だと言って白檀の香を置いていった。…別に宝石鑑定士ではないのだが。

 どうも眠れそうにないので仕方ない、と散歩に出たら、本の山とぶつかった。
「あ~、すみません。前が見えなかったもので~」というルヴァと、何故かそのまま立ち話に付き合わされた。…本の角がぶつかったらしい。額にたんこぶが出来ている。

 執務室の前まで戻ったら、隣人に待ち構えられていた。
「まったく、そなたはいつもいつも…以下略」と延々とジュリアスの小言が続く。立ったままだと熟睡もできない。…もしかして、今日は運が悪いのだろうか。

 早々に執務を切り上げ邸で寛いでいたら、テラスから侵入者が来た。
「なんですか、その意外そうな顔は」
オスカーはそう言うと、テーブルにワインと花束を置く。確か、この男は視察で聖地を留守にしていたように記憶していたのだが、何故ここにいるのだろう。
「貴方、もしかして本気で忘れてるんですか?」
さも呆れた、とオスカーは首を振った。
「誕生日でしょう、貴方の」
すっかり忘れていた。
「人が、なんとか日付が変わらないうちに帰ろうと、必死になって視察をこなして来たってのに、肝心の貴方が自分の誕生日を憶えていないんじゃ、俺は一体何の為に必死になったんだか。・・・まあ、それも貴方らしいと言えば貴方らしいんでしょうけどね」
そう笑う相手を抱き寄せた。
 誕生日だと言う割に。
朝から酷く運のない一日だったような気がするが、これで、差し引きゼロだろう。
「貴方が生まれてきたことに、感謝を」