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Love of the Same Race




 「アンタってさぁ…」
綺麗に色の塗られたオリヴィエの爪が引っ掻くようにオスカーの緋い髪を掬い上げる。
 話し掛ける口調だが応えはない。代わりに聞こえる規則正しい呼吸。
裸のまま、シーツに包まって眠るオスカーと、その脇に腰掛けてその様を眺めているオリヴィエ。
一見して情事の後だとわかる気だるい空気が二人を取り巻いている。 
 「アンタって…」
もう一度、同じ科白をオリヴィエは繰り返した。オスカーの眠りを妨げないよう、細心の注意を払いながら。
 オリヴィエは、情事の後のこの時間が気に入っている。眠りが浅く、人の気配に敏感なオスカーが唯一寝顔を見せる時間だからだ。鋭い氷碧の双眸が隠れただけで、随分印象が柔らかく感じるその寝顔を見ることができるのは自分だけの特権だと思っているし、実際その通りだろう。
 けれど、恋人ではない。
強いて言うなら、悪友95%、情人5%といったところだろうか。二人でいても情事に縺れ込むことはあまりなかった。
情事に至るのは大抵、どちらかが、精神的に弱っている時だった。
互いに本音を人前に曝すことのない二人だからこそ、何も言わずに互いを甘えさせることができたのかもしれない。
 そして今夜は、オスカーの方が弱っていた。
原因など、知らない。それを訊くのはルール違反だ。ただ、オスカーが愛されたがっていたから、愛した。
それは決して恋愛感情の甘さではないけれど、確かに愛と呼べる優しさを持っている。
 「アンタって、自分が思ってる程強くないんだよ…?」
さらさらと緋い髪を掬い上げ、次いで、オリヴィエの指は意外に長い深紅の睫をくすぐった。
「…確かに、強いことは強い、けどね…」
ぼんやりと呟きながら、指先は再びオスカーの髪を梳き始める。
「でも、それはアンタの思ってるような強さじゃないって、気づいてないでしょ」
 面と向かってなんて、絶対に言わない。言ったところでこの男は一笑に付すだろう。
だいたい、そんなことを言うような間柄でもないし、それ以前に、そんなことを誰かに言うなんて、自分のキャラクターじゃない。
だが、こうやって、独り言のように眠る相手に話し掛けるくらいなら、自分の許容範囲だろう。
「アンタは、自分が傷つかないと思ってるようだけどね…」
優しい指先は緋い髪を擽る動きを止めない。
「アンタは傷つかないんじゃない…。傷が、視えてないだけさ」
 いっそのこと、痛みも感じないくらい鈍感なら、それはそれで幸せだっただろうに。
「痛みを、感じるくせに、傷が視えないから放ってるだけ」
 鉄壁の精神。並大抵の事では傷つかない心。そんなものを持っているかのように振舞う男の姿に、オリヴィエは何度呆れた溜息を零したことだろう。
「いつか、無視できない程大きな傷を負うといいさ。その方がきっとアンタには幸せだよ、鈍感男」
 指先が、離れる。代わりに、パサッと静かに乾いた音をたてて、オリヴィエは眠る男の隣りに横になった。
 小さな欠伸をして目を閉じる。
「ま、その時までは、こうやっててあげてもいいけどね」