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おでかけしましょ




 戦う為に召喚されて、戦いだらけの日々だったけれど、戦いだけがすべてだったわけじゃない。

とても真面目で揺るぎなくて皆を引っ張ってくれて、時々真面目すぎて爆笑もののボケを見せてくれた人。
色んな武器を操って、大きな夢を真剣に追えて、タダのものに弱くて女の子に免疫のなかった人。
機転が利いて、ちょっとませた口も利いて、早く大人になりたがっていた男の子。
同い年なのに子供みたいに屈託がなくて、チョコボが大好きで、器用に皆の技を真似て見せた人。
強い魔力を持った、ふかふかなものや手触りのいいものが大好きな女の子。
身の丈程の大剣を軽々と振り回す、チョコボみたいな特徴的な髪型と真っ青な眼が印象的だった人。
複雑な構造の剣を持った、無口だけれど時々入れるツッコミが鋭い、歳の割に落ち着き過ぎだった子。
盗賊で劇団員という肩書を持った、若いのにフェミニストな、しっぽの生えた男の子。
特徴的な喋り方で、明るく遠慮のない、ボールを蹴って敵を倒してしまう男の子。

 戦う為に召喚されて、戦いだらけの日々を生き抜いた、本来だったら出逢うはずのなかった仲間たち。
交わることのないそれぞれの世界で、彼らは今も元気に笑っているだろう。…一部、笑わないだろう人たちもいるが。



「色んなことがあったけど、あそこに喚ばれてよかったよ」
満足そうに微笑みながらそう言ったセシルに、話をじっと聴いていた相手は短く相槌を打った。
「そうか」
「ああ」
「…ところでセシル」
「なんだい?カイン」
親友の低く通りのいい声に呼ばれて、愛想良く返事をする。山頂を吹く風が二人の髪をたなびかせた。
「お前、なんでここにいるんだ」
一層低くなった声は唸り声に近い。晴れ渡った空に、そこだけ暗雲がたちこめているようだ。
「僕がいちゃいけないかい?」
「いけないに決まってるだろう」
「どうして?」
「どうしてってお前な…」
 この星を守る戦いの後、人知れず姿を消したカインが篭るこの試練の山に、今や大国バロンの王であるセシルがひょっこり現れたのは先刻のこと。にこにこと「違う世界に行ってきた」と未知の冒険譚を語るセシルに、カインは途中何度話を遮ろうと思ったことか。
「会いたい。それだけでじゅうぶん!」
「は?」
普段のセシルらしからぬ口調で放たれた言葉に、思わず間の抜けた声を出したカインを見て、悪戯が成功したとでも言うように得意げに笑ったセシルが大きく伸びをする。
「これはね、ティーダ。えぇと、ボール蹴っちゃう子、その子に言われたセリフ」
 きっと他の仲間も自分の背中を押して言うに違いない。気になるなら、自分から会いに行けばいい、と。
「まさかそれで来たとでも言うつもりか?お前、自分の立場ってものを…」
「興味ないね」
「おい」
今度はばっさりと親友の言葉を遮ったセシルに、カインが眉根を寄せた。
「今のはクラウド。チョコボ頭の人。彼の口癖かな」
「…随分、非友好的な口癖だな」
「でも自分の主張通すには便利なセリフだよ」
にこやかなセシルと対照的にカインの表情はますます険しくなっていく。
「冗談言ってる場合じゃないだろう。一国の王がふらふらとこんなところまで来て、その間何かあったら…」
「悪いが、そういう話ならパスだ」
またも取りつく島もなく話を遮ったセシルに、さすがに学習したカインが問う。
「……今度は誰だ」
「これはスコール。17歳とは思えない落ち着き過ぎな子が言ってた」
 アクの強い面子の中でも、特に他人の意見をばっさり斬り捨てることにかけては、双璧を成していた二人の言葉を立て続けに引用して、セシルは笑った。普段自分が言わないようなセリフを口にするのも、偶にはいい。そうだ、勝手に消えたおまえの意見なんか聞いてやらないよ。
「17でそのセリフじゃ、そいつのその先の人生大丈夫か…」
見ず知らずの、同じ世界にすら生きていない相手の将来を慮るカインを横目に、セシルは立ち上がる。
「おまえに、バロンに戻って来いとは言わないよ」
視線は合わせずそう言った。
「カインにはカインの想いがあって、だからここにいるんだってことは理解してる。だから、戻って来いとは言わない。いつか、おまえが帰りたいと思った時に帰ってきてくれればいい」
「セシル…」
でも、とセシルはカインに向き直る。今度はしっかり視線を合わせて。
「だけど僕だって我慢はしないよ。会いたいから会いに来る。それだけだ」
異世界で共に戦った仲間たちなら、恐らくもう二度と会えない彼らなら、きっと言ってくれる。特に明るい仲間の口調を借りるなら「会いたいんなら会いに行っちゃえよ!」と。だって、大事な親友は会えるところにいるのだから。
「お前、なんだか強くなったな…」
酷く眩しそうに自分を見たカインがそう呟くと、セシルは心もち得意げに笑った。
「心の強さが半端じゃない人たちと一緒だったからね」
この星で共に旅をした仲間たちも大概にして個性的な面々だったが、押しの強さというか自己主張の激しさという点では異世界の仲間たちはその数段上を行っていた。彼らに貰った強さを、自分は決して忘れない。
「だから、諦めて、またどこかに姿を晦まそうなんて考えるなよ、カイン」
 そんなことしたら、国王の仕事なんて放って探し出してやる。
今のセシルが言うその言葉に、誇張など1ミリたりともないのだと悟ったカインがややぎこちなく頷いたのは、それからしばらくのことだった。