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最後の言葉は聴いてあげない




 ほとほと自分は罪深いと思う。
それは故郷である星に、そして真実血を分けた弟に。
幼い頃から自我と記憶を封じられ傀儡とされたとはいえ、あまりに大きな罪を犯し、傷つけてきた。
だから、自分は2度と故郷の地を踏むことなど出来ないと思うし、青き星の人々に憎まれて当然だと思う。弟は最後に「にいさん」と呼んでくれたが、それすら自分の身には余りある幸福なのだと理解している。
彼らには、早く自分のことなど忘れて――それは自分の罪を忘れて欲しいという意味ではなく、闇に呑まれた愚かな男に対する憐憫の情に煩わされる必要などないという意味で――彼らの幸せを築いていってもらいたいと願っている。
 なのに、自分は最後にまた罪を重ねた。
自分一人で背負うはずの罪を、共に背負わせてしまった男がいた。彼の人生を滅茶苦茶にして、闇を歩かせてしまった。誰よりも誇り高く、光の中を堂々と歩むべく努力していた青年を無理矢理闇の中へ引きずり込んだのだ。それだけでも罪深いというのに、自分は最後まで彼を解放してやれなかった。
 物言いだけな視線を背に感じながらも、自分は彼を振り返らなかった。怖かったのだ、彼に別れを告げられることが。彼にだけは、自分を覚えていて欲しかった。
 とんだ我侭だと自分でも呆れる。
カインが自分をどう思っているかは知らない。いや、彼のすべてを奪った自分は誰よりも強く憎まれているだろう。
しかし自分にとっては、彼は確かに救いだったのだ。カインを傍に置くことで、彼の体温を感じることで、自分自身を完全に失いそうな己を辛うじて繋ぎとめていた。
 ああ、本当になんて罪深い。
誰よりも幸せになってくれることを願わねばならない相手を、手放すことが出来ないなんて。
きっともう2度と会うことはない。けれどそれは問題ではないのだ。寧ろ、そのほうが性質が悪いのかもしれない。
 カインが自分にはっきりと決別する機会を、永遠に奪ったのだから。
けれど自分の罪深さに震えながら、愚かさを嘲笑いながら、それでも何度繰り返してもきっと自分は同じことをする。彼を振り返らず、彼に別れを言わせない。
どんな罰も覚悟する。だから。
2度と踏むことの適わぬ故郷の地で、誰もが自分を忘れても。
どうか彼だけは自分を忘れずにいて欲しい。