1歩でもいい、踏み出してこい。
ティナに対してそう言ったのは確かに自分だが、それは戦いの場に於いての気構えのことを指していたつもりで、決してこんな意味ではなかったはずだ。
…似たようなものなのか?いや、違うだろう、やっぱり。
心の中はお喋りな17歳、スコール・レオンハート。頭の中で考えていることのせめて10分の1でも声に出せば回避できる事態も多いのだが、そこで黙っているのがスコールだ。
「すごい、ふかふかね」
うっとりとした様子のティナに隣りを陣取られ、ジャケットのファーを弄られること早15分。
以前から物言いたげにスコールを見ていることが度々あったティナが決意した様子で近づいてきた時、そのあまりに真剣な様子にスコールは些か深刻な事態すら想像したというのに、ティナが熱意の籠った眼で見上げて言った科白は、スコールの服をふかふかさせてほしいの、だった。脱力して、その程度のことなら、と頷いたことを既にスコールは後悔している。いくらファーの手触りを楽しみたいと言っても、ほんの2、3回撫でれば充分じゃないのか、と思う自分の感覚が間違っているのだろうか。
「…ティナ」
「なに?」
「気に入ったなら、ジャケットは貸すから」
「ううん、そんな、いいの。脱いだらスコール、寒いでしょう?」
アンタがそんなカッコで平気なんだから俺がジャケット脱いでも平気に決まってるだろ。
と口に出せたらどんなにいいか。だが仲間内の紅一点、その可憐な容姿と純真な性格で仲間の庇護欲を掻き立てるティナ相手にそんなことが言えるだろうか。いや、言えるわけがない。スコールに出来ることと言えば、うっかりするとティナの胸に肘が当たってしまいそうな腕の位置をさりげなく変えつつ大人しく座っていることだけだった。
いつもナイト宜しくティナの傍にいて、ジタンやバッツ辺りがティナにちょっかい出そうものなら容赦なくメテオを放つオニオンは、何故だか割り入ってくる気配も見せず、スコールならいいよ、という信頼溢れる言葉と共にティナの傍から離れてしまった。そんな信頼などこの際要らない、とスコールは思う。
「あのね、スコール」
「…なんだ」
「もう1つだけ、お願いしてもいいかな」
まだ何かあるのか。
そう言いたいのを堪え、スコールは無言で続きを促した。ティナの夢見る瞳は潤んでキラキラと輝きながらスコールを見つめている。
「スコールの髪、触ってもいいかな?」
俺に拒否権はあるのか。
スコールは間髪入れずにそんなことを思ったが、考えるまでもなくそんなものはないのだろうと解ってしまう自分を呪った。
「おお…!ティナがスコールの頭撫でてるッス!」
「よかったねティナ…!」
「さすがのスコールも大人しくしちゃって。可愛いなあ」
「おれも撫でたいなあ。ボコとどっちが手触りいいんだろ?」
「だからと言って俺を撫でるな、バッツ」
「だけどいいのか?こんな覗き見みたいな真似…」
「いいんだって。癒しだよ癒し。ティナは念願のスコールの服と髪撫でて癒されて、スコールは幸せそうなティナに癒されて、オレたちはその2人を見て和んで癒されるって、このカンペキな構図!なっ?ライト」
「時には力を抜くことも大切だ」
「ライトがそう言うならいいが…。あれ、スコールは癒されてるのか…?」