あ。
小さくそんな声が洩れてしまってジタンは慌てて口を噤んだ。音や気配に敏感な相手の眠りを妨げてしまったのではないかと息を潜めて伺うが、どうやら平気そうだった。
隣りで眠るスコールは、体をこちらに向けて眠っている。毛布からはみ出た指先が、喉の乾きに目が覚めて半身を起こしたジタンの指に触れたのは偶然だ。
ジタンは視線を落として自分とスコールの毛布の間に投げ出された手を見つめる。
細い指だった。
いつもは黒いレザーグローブに覆われて見えないその指先は、ジタンが思っていたよりも華奢で、無論女性のものとは明らかに違うけれど、どこか心許ない気分にさせるものだった。体格が違うから当然ジタンの手よりスコールの手の方が大きいが、体格のわりに意外と大きく肉厚なジタンの手と、指が細く長く薄い掌のスコールの手では、どちらがより頼りない印象を与えるかと訊かれれば恐らくスコールの手の方だろう。剣を扱うその手の節々はしっかりしていて決してひ弱だとは言えないが、なんとなくもっと大きくて力強い手を想像していたジタンは、その細い指に何故だかひどく衝撃を受けた。
1度引っ込めた自分の指を、ジタンは再び慎重にスコールの指先に触れさせてみる。
冷たい指先だった。
毛布からはみ出している所為だけではない、きっと元々の体温が低いのだろう。凍えたような指先はなんだかとても寂しく感じられて、ジタンは眉根を寄せた。
年相応な様子を見せることもあるし、不器用な性格であることも知っている。時には子供っぽいほど向きになることだってあるのも解っている。しかし決して頼りないなどと感じたことは1度もなかったスコールに、今まで感じたことのない脆さを感じてしまってジタンは戸惑う。ほんの少し、指先に触れただけだというのに。
そんなことないそんなことない。
スコールは強くて頼れるヤツだ、とジタンは頭の中で唱え、喉が渇いて起きたのだから水を飲みに行こうと自分の手を引っ込めようとしたその時だった。
「え?」
離そうとした指先に、きゅ、と力が掛かった。驚いて見ればスコールの指先がジタンの指先を離したくないかのように少しだけ曲がっている。握るほどの力は込められていないけれど、確かに引き止める仕草。慌ててスコールの顔に視線を移すが、眸は閉じられたままだ。ジタンが見つめているその先で、寝息を吐き出していた唇が微かに動く。
行かないで。
音にならないそれは夢の中で言ったのだろうか。耳に届かないそれを、ジタンは眼で読んだ。
心臓がドクン、と大きく跳ねて、それからキュウ、と締め付けられるように痛む。
この痛みを知っている。知ってはいるがまさか、とも思う。
けれどとりあえずそんなことは意識の外へ置いておくことにした。物事には優先順位というものがあるとジタンは心得ている。
今まず自分がすべきことは、胸の痛みの正体を暴くことではない。
ジタンはスコールを起こさないようにそっと、しかし彼の夢の中へと届くようにと願いを込めて呟く。
「どこにも行かないさ」
そうして、ジタンはスコールの冷たい指先を優しく握り返した。