午前7時起床。勤務は午前8時半から午後5時。昼休憩は交代制で1時間。3食支給。部屋は従業員用だから狭いがツインベッドでシャワールーム付き。使用時間帯は限られているが大浴場に行けば源泉かけ流しの露天風呂にゆったり浸かることも可能だ。そして自由時間は滑り放題。
2年前から始めたこの冬季限定のバイトは今回で3シーズン目。時間は限られているとはいえスノボ三昧の生活で金も稼げるなんて、一石二鳥どころの話じゃない。最初のシーズンの終わり、是非来年もと言われて、2シーズン目からは時給が相場の倍になった。俺達は驚いてオーナーに訳を訊いたが、とにかくいいからうちで働いてくれと言われて頷いた。おかげでこの冬のバイト代だけで2人合わせて充分な額を稼げる。最初は何かヤバイ仕事でも回されるのかと警戒したが、ネットのゲレンデの口コミサイトを見て事情を知った。…「イケメン2人に会えるゲレンデの宿」って口コミが広がってシーズン一杯満員御礼らしい。それについては俺は何も見なかったフリを通している。スコールにも話してない。雇い主と従業員の利害が一致してるんだ、それが大人の対応ってもんだろう。オーナーの人格にも問題ないしな。俺のスノボ好きを知って、オーナーはリフト担当にしてくれたから昼休憩に入った途端滑りに行ける。営業終了後のナイターは偶にスコールも滑る。あいつもかなり滑れるが、俺ほど興味はないらしい。3日に1度くらいのペースだ。代わりと言っちゃなんだが、いつの間にか宿のフリースペースで恒例になってたカードゲームに興じてる。なんでも噂が噂を呼んで今じゃカードゲームマニア垂涎のプレイスポットらしい。ますます宿の人気が上がってオーナーはご満悦だろう。まあ、スコールはカードゲームに関しては目の色変えるからな。初めは半ば無理矢理引っ張ってきたバイトだから、それなりに楽しんでくれてるようでよかった。
カーテン越しのぼんやりとした明かりが、隣りで眠ってるスコールの顔をうっすらと浮かび上がらせる。
半年ぶりに来たここにちょっとテンション上がって今日からバイトだってのに無理させたかもしれない。でもまあ、本気で嫌がってはなかったからこいつもここに来るのを結構楽しみにしてたのかも、というのは俺の希望か。
この半年弱の住み込みバイトのメリットはもう1つ。互いの生活リズムが合って、その上2人きりでいられることだ。2人で暮らしていても普段は互いの用事ですれ違うことも結構あるし、男2人の部屋は友人たちの溜まり場になり易い。やつらは気のいい連中だが遠慮がないからとんでもない時間に泊めてくれなんてやって来ることもしばしば。悪気がないのは解ってるし話してない俺達も悪いかもしれないが、一応恋人な俺達としては都合が悪い時もある。その点、ここは誰かに急に訪ねられることもない。バイト仲間とはそれなりに上手くやってるが、皆スキーやスノボ三昧の生活を満喫する為に来てるから夜なんてクタクタになってすぐ寝るようなタイプばっかりだ。…ほんと、いいバイトだ。
目覚まし時計が7時を示す。ピッと音が鳴ると同時に止めるとスコールが僅かな声を上げてゆっくり瞼を持ちあげる。それを確認して、俺は窓辺に立った。
煙草の焦げ跡が残る厚手のカーテンを一気に左右に開く。昨日降った雪が視界を真っ白に染めて朝日を反射してる。眩しい。2,3日前だと積雪がちょっと危ぶまれてたが、いいタイミングで降ったな。絶好のシーズンスタートだろう。
さあ、冬が来た!