記事一覧

Darlin’ Darlin’





 トサッ、と軽い音と共に左肩にかかった重みに、スコールは目を瞬かせた。
「クラウド…?」
隣りで自分と同じように愛用の武器の手入れをしていたはずの相手の名を呼んで、顔を横に向ければ、視界が淡い金色に染まる。
 寝てる…のか?
声に出さずに頭の中で浮かべた疑問は、耳に届く規則正しい穏やかな息遣いで肯定された。
 まあ無理もないか。
スコールはそう思う。
うららかなな日差しが背凭れにした大木の葉の隙間から零れ、午睡を誘っている。
辺り一帯のイミテーションの掃討を終え、今日1日は休息日にするとライトが言い渡したのが昨夜の話だ。仲間たちは今朝から鍛錬したり、丁寧に武器の手入れをしたり、荷物の整理をしたり、遊んだりと、思い思いに過ごしていた。最近は戦闘続きだったから、戦いの緊張のない一時はとても貴重で睡魔も忍び寄ろうというもの。
 スコールは静かに首を曲げて眠るクラウドの顔を覗き込んだ。。それからグローブを外した右手でそっと金色の髪に触れてみる。
 …やっぱり、綺麗だ。
心の中でそう呟く。冬の月のような淡い金色の髪も白皙の肌も、通った鼻筋や薄い唇も、今は伏せられた睫も、奇跡的な造形と言っていいくらいクラウドはとても綺麗な顔をしていると思う。見慣れることなどない。つい見惚れてしまうことなど日常茶飯事だ。愛用の大剣を構えた時の凛々しい表情など、許されるならいつまでだって見つめていられるとスコールは本気で思っている。
視線を落とせば、厚い胸板と太い二の腕が目に入った。繊細な容貌を裏切る逞しい体躯だ。骨格の違いからかどうしても華奢に映る自身の体と比較して、心の底から羨ましい。少し憎たらしく感じる程だというのは秘密だ。
 でも…すごく安心するんだ。
クラウドの腕の中が、今のスコールにとって最も心落ち着く場所なのは疑いようがない。
そこで今朝方まさしくクラウドに抱き締められた状態で目を醒ましたことを思い出し、更に芋蔓式にその状態になるに至った昨夜の激しい情交までも思い出して、スコールは目許を赤く染めた。
 …腰、まだ少し痺れた感じが残ってるし。
頭の中で文句を言って、小さく溜息を吐く。今日が休息日ということは多少の疲れや怠さが残っても問題はないということで、それはつまり少々箍が外れても致し方ないということだ。クラウドだけを責めるつもりはないが、過ぎた快楽に気を失うまで放してもらえなかった昨夜の記憶に、なんだか居た堪れなくなる。
 駄目だ、こんな真昼間から何思い出してるんだ俺。
長閑な昼下がりに似つかわしくない思考を振り切るべく、顔を洗ってこようとスコールが左肩に預けられたクラウドの頭をそっと外そうとすると、その手を掴まれた。
「何処へ行く?」
「…起きてたのか」
「途中で起きたんだ。そんなに熱の篭った眼で見つめられたら、な」
スコールの顔を覗き込むように見ながら言うクラウドの口許は笑っている。途端、カッと頬に熱が集まるのをスコールははっきりと自覚した。当然、間近でスコールを見つめているクラウドにもそれは明らかだ。
「…?どうした?」
「………ぃから」
赤い顔をクラウドの視線から背けて呟かれた答えは殆ど音になっていない。クラウドが「聞こえない」と言うように首を傾げるので、スコールは頬を更に赤く染めて自棄気味に口を開く。
「…アンタが、カッコいいから!」
 もしこの場に第3者がいたら「惚気かっ」と呆れること必至だが、幸か不幸かここには2人の他は誰もいなかった。
「…ほんとに、お前は可愛いな」
「なっ…ん」
微妙なズレが生じた会話は、スコールの抗議が続く前にクラウドがスコールの口をキスで塞いで終わらせてしまう。
 
 
穏やかな木漏れ日の下で、2人の影がいつ離れたのかは、本人たちの他は誰も知らない。