「うっわ、ヤッベ…ッ」
調子に乗りすぎた、とジタンは舌を出した。余裕がある振りをしているのは自分自身への見栄だ。
その間にもジェクトを模したイミテーションの攻撃を躱し、クジャのイミテーションが放った魔法を紙一重のタイミングでやり過ごす。
複数のイミテーションを見つけて、面倒事は1度で片づけてしまえと考えたのはいいが、予想していたよりもイミテーションのレベルが高かったのが現状を招いた理由だ。他にエクスデスのイミテーションとゴルベーザのイミテーションの2体、計4体のイミテーションに熱烈に追い掛けられている今、反撃する余裕などジタンにはない。
「ジタン!横に跳べ!」
下方から聞き慣れたスコールの声がしたのと、目の前に巨大な光の刃が現れたのは同時だった。
「おおっと」
慌てて左方向へと跳べば、ジタンを追いかけていたイミテーション達が光の刃の直撃を受ける。
「あっぶねー!」
あと半瞬でもジタンの反応が遅かったら、イミテーション諸共直撃を受けるところだった。これは援護の礼を言う前に文句を言っていいだろう。勢いよく振り向いたジタンは、そこで「あれ」と声を上げた。
「なんだよ、そっちもお客さん連れてんの?」
「別に連れてきたかったわけじゃない」
憮然と答えたスコールの遥か後方に数体のイミテーションが見える。どうやらジタンの援護に来たというよりは、ジタンと同じく複数のイミテーションを相手に戦う内に偶然ジタンが追われている状況に遭遇した、ということらしい。
イミテーションの影にじっと目を凝らしていたジタンはやがて不服そうにスコールを見上げた。
「レディばっかじゃん。ずり~」
スコールが不本意ながら引き連れてきたのはティナにアルティミシアにシャントットのイミテーションと、見事に女性ばかりだった。…イミテーションに性別があるのかは疑問だが、とりあえず外見は女性だと言っていいだろう。
「…羨ましいか?」
「そりゃヤローに追いかけられるよりレディに追いかけられたいぜ」
「そうか、じゃあ譲ろう」
「ちょっと待てぇっ」
ジタンをその場に残してさっさとその場を離れようとするスコールの手を、ジタンは慌てて掴んだ。1人で7体のイミテーションを相手にしろとは非情もいいところだ。
「…冗談だ」
スコールが全く面白みの欠片も感じさせない表情で言うが、半分本気だったに違いないとジタンは踏んでいる。段々と打ち解けてきて気づいたが、スコールは面倒事を時々恐ろしいほどあっさりと放り出そうとするのだ。
「ジタン、ヤツらを纏めてこっちまで誘い込んで来い」
魔法偏重型の敵が多いから距離を開けられたままだと不利だとスコールは淡々と続けた。空中での動きも速いジタンが敵を誘い込み、スコールの技で一気に片付けてしまおうという算段だ。
「…なんかオレのが重労働じゃね?」
「この間、ライトの兜で皿回しした挙句皿を割ったのを黙っていてやった貸しはこれで帳消しにしてやる」
「………乗った」
損得計算に要した沈黙の後、短く頷いたジタンは腰を低く落とす。隣りでスコールもガンブレードを構えた。
「仕留め損ねるなよ~」
「誰に言ってる」
先程1人でイミテーションに追われていた時の焦りはもうない。今度は振りではなく本物の余裕を滲ませて、ジタンは大地を力強く蹴った。
「んじゃ~」
レディ・ゴー!