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魔女っ子理論71~84

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眠るスコールの体を、ライトが両腕に抱え上げる。10人揃って異世界へと戻る時が来たのだ。
「コールドスリープですから、筋力の衰えなどはないですが、2年近く眠ったままでしたからすぐには機敏に動くことはできません。少し慣らしてあげてください」
「承知した」
ライトが頷くと、シドは視線をスコールへと落とした。
「私はいつだって君にたくさんのものを背負わせてきました。…何も知らない君に、運命だと言ってね。許してほしいとは言いません。ただ、君の幸せを願っています。君はもう、伝説のSeeDでも魔女でもない。君が背負うべきものは、世界ではなく、君を愛する人たちの想いだけですよ」
「お行きなさい、運命の子。あなたの運命の外へと。そして、どうか幸せになってね、私の愛しい子。『まませんせい』と呼んで私の手を握った小さな男の子の幸せをずっと祈っています」
シドに寄り添ったイデアが優しい声で言う。クレイマー夫妻の次にスコールの前に立ったのはゼル。
「オマエに頼りっぱなしだったし、後は任せとけよ。この物知りゼル様でも知らねぇモンたくさん見てこいよな!んで、いつか…いつか、オレの墓の前で報告でもしてくれよ」
最後は涙声で不明瞭になったゼルを押しのけて、セルフィが立つ。
「はんちょに言うといて。ウチらのこと、全然思い出さんでもかまへんよって。ウチらのこと気に掛けんといてくれた方がええねん。はんちょに、幸せになってほしいんやから」
そのセルフィの肩を抱いて、アーヴァインも言う。
「君が僕らを思い浮かべなくたって、僕らはちゃんと君を憶えてるから大丈夫。…迷った時はいつだって君の声を思い出すんだ。『アーヴァイン・キニアス!』って、叱られたあの声を思い出すんだよ。これからもずっとね」
「あなたはずっと手の掛かる弟みたいで、手の掛かる教え子で…。一足早いけど、ガーデン卒業ね。…悩んたり迷ったりしたら、ずっと自分で抱えてないで、吐き出しなさいよ?それこそ、壁にでも話すとこからでもいいわ。言葉にしなさい。先生からの最後のアドバイスよ」
キスティスが、時折声を震わせながら、それでも気丈な様子でそう言うと、壁際に立っていたサイファーを「ちょっと、あなたも何か言うことないの?」と引っ張ってきた。そのサイファーは、眠るスコールの顔を不機嫌そうに見ると、すぐに背を向ける。
「…余計な荷物なんざ、もう持つなと、そのバカに言っとけ」
再び壁際に戻ってしまったサイファーに、キスティスが「…もう」と溜息を吐く。
「ラグナ君のことは心配しなくていい。彼は基本的にどんな環境でも生きていける男だ。腐れ縁の我々が野垂れ死にだけはしないよう見張っておくよ」
「………」
「『毒を食らわば皿までと言うからな』とウォードも言っている」
「おまえらな…」
キロスとウォードの言葉に情けない顔をしたラグナは、暫しの逡巡の後、眠るスコールの手を軽く握った。
「ずっとおまえに言いたかったことがあるんだ。…おまえは、オレの大事な大事な、自慢の息子だよ。生まれてきてくれて、ありがとう、スコール」
「私の後をずっとついてた小さなスコール。私の大切な弟。私がいなくても、本当にあなたはたくさんのことを1人で出来るようになったね。…でも、忘れないでね。スコールは1人ぼっちじゃないわ」
エルオーネも、1度軽くスコールの手に触れてそう言う。
 最後に、リノアが彼らの前に歩み出た。彼女はライトの隣りに立っていたフリオニールに、黒いケースを渡す。その独特の形から、それがガンブレードだと判る。
「スコールに伝えて。約束、忘れないから。どんなに時間が経ったって、わたしは絶対に待ってるから、だから。いつか、スコールがスコールの時間を終える時が来たら、ちゃんと逢えるから。スコールは、スコールの時間を生きて、って。待ち合わせ場所、忘れないでねって」
「君達の想いは、必ず伝えよう」
ライトが力強く応えると、リノアも泣き笑いの表情で頷く。そして、1歩下がった。それが合図だった。
 9人の前に現れたクリスタルが眩く輝き始める。眠るスコールの許にも、10個目のクリスタルが現れた。
眩い光の中、眩しそうに眼を細めながら、それでも最後の瞬間までスコールの姿を眼に焼き付けようとしている彼らの姿。それもまた、白く弾ける光の中で見えなくなる。
最後に聞こえたのは、甘く切ない彼女の声。
「また逢おうね。…さよなら、スコール」


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光の収束と共に、彼らの視界に入ってきた景色は秩序の聖域だった。
とりあえずスコールの体を休ませる場所が必要だと、彼らは勝手知ったる手際の良さでテントの設営をする。
「相変わらず、テントとかどっからともなく手に入るのが不思議だよなあ」
「ホントだよなあ」
そんなことを言いつつ設営を終えると、スコールの体を横たえる。この間ずっと平然と彼を抱えていたライトの腕力は既に人間の域を超えている、と密かにジタンやオニオンが思っていたのは秘密だ。
作業が終われば手持無沙汰な9人は、なんとはなしにスコールを囲んで彼を見つめている。こんなに凝視されていては、さぞかしスコールが目覚めた時に驚くだろう。尤も、スコールにとっては目覚めること自体が本人の想定外なので、簡単に状況を把握できないかもしれない。
「スコール、なんて言うかな?」
「やっぱり、『どうして』とかじゃないか?」
「いきなり『俺に構うな』なんて言われたりしたらオレらどーするよ?」
「さすがにスコールもそこまでは言わないだろー」
そんな会話を交わしながら、スコールの目覚めを待つ。
 やがて、スコールの瞼がヒクリ、と動いた。ほんの一瞬の、僅かな動きだったが彼を凝視していた9人がそれを見逃すはずもない。彼らの顔に歓喜と、そしてこれからスコールに伝えねばならないことを考えた時に感じる不安が入り混じった表情が浮かぶ。
そんな複雑な空気の中、ゆっくりと、スコールの瞼が持ち上がった。眼が光に中々慣れないのだろう、何度も何度も瞬きを繰り返し、ようやく視線を周囲の景色に合わせた次の瞬間、その眼が驚きにこれ以上ないと言う程丸く見開かれた。
「おはよう、スコール」
覗き込んだティナがにっこり笑う。
「な…、ん、で…」
約2年ぶりに動かす喉はうまく動かず掠れた声をようやく搾り出した。
「無理しないで、スコール。久しぶりに動くんだから」
セシルが柔らかい調子で言うと、そこで急速に脳が活動し始めたのだろう、スコールは飛び跳ねるように起き上がろうとして、思うとおりに体を操れず上半身のバランスを崩して倒れこみ、背後にいたフリオニールに支えられる。
「スコール!」
フリオニールがスコールの体をもう1度横たえようとするが、スコールは逆にそのフリオニールの腕を掴むとそれを支えに乗り出すようにして掠れた声で叫んだ。
「どうして俺はここにいる!?…リノアはっ!?他のヤツらは!?」


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 スコールの言葉と、そして射抜くような視線に、彼らは一瞬黙り込んだ。怯んだわけではない。ただ、あの物静かなスコールがここまで激昂したことで、彼が彼の大切な人たちをどれほど強い想いを以て護ろうとしていたのかを感じ取ったのだ。約2年ぶりに目覚めて、殆ど状況も把握出来てはいない状態で、それでも真っ先にリノアや他の仲間たちの状況を案じる言葉が出てくる。それはスコールが眠りに就くその瞬間まで、彼らのことを案じていたからだろう。
 一瞬の間に、スコールは2年前異世界へと喚ばれた時のように抗えない力で無理矢理ここへと来た可能性に思い当たったのだろう。「アンタたちに訊いても、わからないか…」とまだ掠れ気味の声で言った。
「いいや、スコール。我々は君の世界へと赴き、君の仲間たちと出会い、そして彼らに君を託されてここにいる」
ライトが真っ直ぐにスコールを見据えて口を開く。
「…説明してくれ」
 ある日クリスタルが輝いてこの異世界へと再び喚ばれたこと。そこにはクラウド、スコール、ティーダの3名の姿が欠けていたこと。こちらへ来れない事情があるなら手助けしようと決めたこと。クリスタルと、それぞれの世界で彼らの助けを求めていた者たちの力を借りて、まずティーダを、次いでクラウドを、最後にスコールを迎えに行ったこと。バラムガーデンからエスタへと行き、そこでスコールの抱えた事情をすべて聞いたこと。スコールの不在を誤魔化す措置は取られていること。
「だったら…さっさとこっちでの任務を終わらせて還らないと」
スコールはそう言う。「任務」という表現がスコールらしくて懐かしい、と仲間たちは思いつつ、彼に最も重要な事項を告げた。
「スコール。この世界で僕たちが為すべきことが終わっても、君を元の世界には還せないんだ」
「それが、君の世界の仲間たちとの約束であり、我々も含めた全員の総意だ」
「…どういうことだ?」
訝しげに仲間を見回すスコールに、仲間たちは、リノアやラグナたちがスコールに生きて欲しい、その一心で下した決断を伝える。
「何を馬鹿なことを…」
「馬鹿なことじゃないッスよ!スコールが自由に生きてけないって判ってるトコに、還すなんて絶対嫌だ」
「そんなこと、お前たちに関係ないだろう!?」
「ないわけないだろ!おまえが犠牲になるって判ってる世界に、黙って還らせるわけないじゃないか。おれたち仲間なんだぞ」
「俺の世界の事情を聞いたというなら、解るだろう。もし俺が消えていることが発覚したら、戦争だって起きかねないんだ。そうなれば真っ先にエスタと、バラムガーデンが…アイツらが攻撃対象になるんだ」
「だからって、スコールが全部背負って眠んなきゃいけないなんてオカシイよ」
「別に俺はそれで構わないんだ。放っておいてくれ」
「それは、あんたのエゴだ」
「…っ」
クラウドの冷静な指摘に、スコールが言葉に詰った。
「君が自分の時間や自由を捨ててでも彼女たちを護りたいと思ったように、彼女たちも危ない橋を渡ってでも君を自由にしたかったんだよ」
セシルが諭すように続ける。
「それに、俺達は彼女と約束した。お前をあの世界には還さない、と。約束は守る為にするものだろ」
フリオニールもスコールの上体を支えてやりながらキッパリとした口調で言った。
「しかし…」
まだ納得しない様子のスコールに、ティナが告げる。
「リノアさんが、あなたに、生きて欲しいって、言ってたよ」
その言葉に、スコールの眼が僅かに瞠られた。


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「リノアが…?」
「リノアちゃんはオマエを自由にしたくて、オレたちをオマエの世界に呼んだんだ。オレたちなら、オマエをSeeDとか魔女とか関係ない処へ連れていけるんじゃないかって」
ジタンの言葉にスコールは黙る。恐らく心の中では目まぐるしいスピードで様々な想いが去来しているのだろう。
「スコールに伝えてって頼まれたメッセージ、全部ちゃんと伝えるから、聴いて?」
ティナが優しく言うと、スコールの視線が彼女を捉えた。沈黙は肯定だと受け取り、仲間たちは代わる代わる預かったメッセージを口にする。完璧にとはいかないが、できるだけ、一言一句に至るまで正確に伝わるように。
託されたメッセージの、言葉の隅々にまでスコールを案じる者達の想いが込められていると感じたから、その想いがちゃんと、スコールに伝わるように。
 スコールは黙って聴いていた。シドの言葉、イデアの言葉、ゼルやキスティス、セルフィ、アーヴァインの言葉。サイファーの言葉を伝えたときは、僅かに驚いた様子を見せる。キロスとウォードの言葉、そして、ラグナとエルオーネ、リノアの言葉。
「おれ達の気持ちだっておんなじだ。スコールに、生きて欲しい」
すべての言葉を聴き終えても、スコールは黙ったままだった。自力で上体を起こしているものの、眠り続けた体はまだ辛いだろうにじっと俯いたまま反応を示さない。
仲間たちも、今この場でこれ以上スコールに掛けるべき言葉を持っていない。
痛いほどの沈黙の後、俯いたままのスコールがぽつっと言った。
「…1人にしてくれ」
彼らは、無言で顔を見合わせ、そしてライトが1つ静かに頷く。すぐに心の整理をしろというのは土台無理な話だ。10人が揃っても特に異変が起こった様子もない今ならば、スコールの心と体を落ち着かせる時間を取っても構わないだろう。
「僕たちは外にいるから」
セシルがスコールにそう声を掛けてテントを出て行く。他の仲間たちもそれに従った。
 要望通り1人きりになったテントの中で、スコールは思う通りの機敏な動きをしてくれない自らの片足を抱え、膝に額を押し当てる。
「今更、だ…」
スコールの口から、途方に暮れたような呟きが洩れた。


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 仲間たちは言う。スコールがリノアを自由にしたかったように、リノアもスコールを自由にしたかったのだと。スコールが大切な人たちに平穏な生活を送って欲しかったように、大切な人たちもまたスコールに平穏な生活を送って欲しかったのだと。
スコールが眠りに就いた直後から、彼らは悩み、迷い、ずっと答えを出せずにいた。スコールを世界の畏怖から護る術が見つけられずに、どうすることもできずにいた。そんな彼らの希望の光が、異世界の仲間たちだったのだと。魔女もSeeDも知られていない世界でならば、スコールは自由に生きていけるはず。生きて欲しい、生きて幸せになってほしい、それだけを願ってスコールを託したのだと。
「そんなの…無理だ」
スコールの呟きは力ない。
 本来の世界の仲間たちも、この異世界の仲間たちも、スコールがすべてを背負って犠牲になるなんて駄目だと言う。スコールが仲間を護りたいように、自分たちもスコールを護りたいのだと言う。けれど、スコールは知っている。自分の行動は、皆にそんな風に思って貰えるようなことじゃない。あれは、逃避、だ。
 自分が魔女の力を継承したと知った時、確かに真っ先に考えたのは、これでリノアを自由にしてやれる、ということだった。けれどそれだけではない。完全な魔女の力。永遠にも感じる永い時を刻む命。それが自分の中に宿っていると確信して感じたのは、言い知れない恐怖だ。
 俺はまた、1人ぼっちになるのか?
そう考えたときの、奈落へと落とされたような絶望感。無理だ、と瞬時に思った。
 リノアを、仲間たちを、老いて生命を全うしていく彼らを、本来同じように時を刻むはずだった自分が見送って、そして1人取り残される。畏怖の視線に晒されて、1人きりで生きていく。
そんな結末の見えている道を、それでも歩んでいけるほど自分は強くない。
幼い頃の喪失感から、頑なに他人を拒絶して生きてきた自分に、もう1度人の温もりを教えてくれた大切な人たち。このまま生きていけば、あの喪失感をまた味わうことになる。
 駄目だ。あんなの、もう耐えられないんだ。俺はそんなに強くないんだよ…!
あの喪失感をもう1度味わうくらいなら、醒めない眠りの中で何も感じずにいる方が遥かにマシだ。そうすれば、畏怖の視線に晒される事なく世界の平穏も保て、大切な人たちの安全も護れる。スコールにとって眠りに就くという選択は、これ以上ないほどの、ベストな選択だったのだ。
 けれど、仲間たちは生きろという。自分が眠ることで、リノアたちはずっと迷っていたという。
エゴだと言われて言い返せなかった。解っていたからだ。自分の行動は、確かにリノアたちの身を護れたはずだが、彼らはそんなこと望んでいなかったのだと最初から知っていたからだ。
 結局、俺は自分が傷つきたくないだけ、か。
スコールは投げ出していた片足も引き寄せて、両膝の間に顔を埋める。
 強くなったと思っていた。仲間を得て、彼らを信じ、彼らに信じてもらう強さを得て。だから2年前のこの異世界でも、仲間を信じて独りで往く道を選べた。でもそれは、離れていても、確かに同じ時間に仲間が存在していたからだった。
 皆が消えて…。想いだけ抱えて生きてくなんて真似、俺には無理だ。
元の世界に戻らなければ、畏怖の視線に晒されることはないだろう。1箇所に留まらなければ怪しまれることもない。でも、それだけだ。そうやって彷徨っている間に、リノアも、ラグナも、サイファーやキスティス達も、そしてこの異世界の仲間たちも、皆知らないうちに命を終えて、ただ1人残されるのだ。
 もっと、強かったらよかった。仲間たちの想いに応えられるだけの、強さがあればよかったのに。
スコールがそう思って拳を握り締めた時、突然テントの入り口が開けられる。
「邪魔するぞ」
そう言って入ってきたのは、クラウドだった。


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スコールが弾かれたように顔を上げれば、クラウドは遠慮なく傍まで来て座り込んだ。クラウドはどちらかというと思慮深く物静かで、こんな風に「1人にしてくれ」と言っているスコールの処に来るタイプではないと記憶しているから、その行動にスコールは驚く。
「お前に、言い忘れていたことがあった」
「言い忘れたこと…?」
まだ何かあるのかと警戒するスコールの様子に苦笑いしてクラウドは頷いた。
「スコールを元の世界には還さないと言ったが…」
「…」
「何処に連れて行くのかは言ってなかっただろう?」
そういえばそうだった、とスコールは思い出す。元の世界には還さない、それが元の世界とこの異世界双方の仲間たちの総意だと告げられはしたが、では自分はどこで生きろと言われているのだろう。まさかこの異世界を彷徨い歩けというわけでもないだろうし、スコールには行く当てなんてないのだ。
「あんたは俺の世界に連れて行く」
「…クラウドの?」
「ああ。あんたのところ程じゃないが、俺の世界も比較的技術の発達した世界だ。1番馴染み易いだろうと皆納得している」
そう言われて、スコールは2年前に異世界の仲間たちとの会話に苦労したことを思い出した。多くの記憶を失っていた自分だが、それでも知識として持っていたスコールにとって極々当たり前のものが仲間の多くには未知のものだったのだ。そんな中で、クラウドとティーダとは、そういう苦労を殆ど感じずに会話が出来た。その時にも、恐らく元の世界の文明レベルが近いんだろうな、と思った憶えがある。
「それと、最後までとは言えないが、俺はあんたの時間に付き合ってやれる」
「…え?」
意味を把握し兼ねたのだろう、キョトンと眼を見開いたスコールの表情が幼くて、クラウドは少し笑う。考えてみれば2年近くコールドスリープで眠っていた彼は、17歳のままなのだ。多少の幼さが残っていても当然だった。
「俺も、普通の枠からは食み出た事情があるということだ」
クラウドは、仲間たちにしたのと同じ説明をスコールにもする。スコールを自分の世界に連れて行き、永い時間を共有するうちに、いつかはもっと詳しい事情を話すこともあるかもしれないが、今のところは掻い摘んで話せば充分だろう。
「簡単にはあんたを独りになんてしないから、安心しろ」
そう言って、クラウドはポン、とスコールの頭に手を置いた。


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普段のスコールであれば、すぐさまクラウドの手を払い退けただろうに、彼は俯いたきりクラウドの手を退けようとしなかった。たぶん、様々な葛藤がスコールの中で渦巻いているのだろう。
柔らかい髪をくしゃっと撫でて、クラウドは手を離す。それでもスコールが顔を上げる様子がないから、まさかとは思うが泣いているのではあるまいな、と顔を覗き込んでみるが、さすがに泣いてはいなかった。
 こいつがまさか泣いてるかも、なんて前は絶対に思わなかっただろうにな。
クラウドは心の中で呟いて苦笑する。エルオーネの力に依ってスコールの過去を垣間見たおかげで、スコールの印象が変わったことは否めない。本人に知れたらタダじゃ済まない気がするが。
そんなことを思っていると、俯いたままのスコールからポツリと声が洩れた。
「アンタは…」
「ん?」
「アンタは、なんとも思わなかったのか?」
何を?とクラウドは訊こうとして思い当たる。スコールが訊きたいのは「人より永く生きなければならないことが怖くないのか」ということだろう。
「そうだな…」
訊かれて考えてみる。どうだろう。怖いと思っていただろうか。
「…考えた事なかったな」
「…は?」
予想外の答えだったのだろう、思わず、と言った様子でスコールが顔を上げた。
「そんなところまで考えている余裕が俺にはなかった」
 人より永い時間を生きる、それについて考えた事がないわけではない。けれど、クラウドにはそれ以前に越えなければならない壁があって、そちらの方に意識が集中しがちだったのだ。未来を考えるよりも過去に囚われていた。寧ろ人より永い時間は、過去の罪に対する罰なのだと意識するまでもなく捉えていた。
「許されたい、俺はそればかり考えていたからな」
苦笑いと共に吐き出された言葉に、スコールの眸が不思議そうに瞬いた。


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「俺を助けて死んだヤツがいる。俺がもう少し強ければ死なせずに済んだかもしれない人もいる。俺が弱かった所為で引き起こしてしまった災厄もある。ずっと俺は、それを許されたいと思っていた」
「許されたい…」
「戦う理由を探してたのも、理由もなく戦ったらまた、何か取り返しのつかないことになるんじゃないかと怖かったからだった」
クラウドの言葉にスコールは2年前を思い出す。物理攻撃魔法攻撃共にバランスの取れた羨ましく感じる程の戦闘力を有しながら、意味のない戦いをしたくないと、戦う理由を模索していたクラウド。互いに無口な性質であるし、クリスタルを手にする道程でも別行動だったのでそんなに言葉を交わした記憶はないのだが、それでも1度、何かの話の折に触れ、戦う理由を訊かれたことがあった。あの時、自分は何と答えたのだったか。
「あの時は、お前が羨ましかったな」
クラウドはそう言う。特に羨望に値するような回答をした憶えがないスコールは首を傾げるしかない。
「俺が…?」
「他の連中は皆それぞれの戦う理由を答えてくれたが、あんただけだ。『理由なんて必要ない』と言い切ったのは」
それは、スコールが傭兵だったからだ。戦うことが仕事な人間に戦う理由なんて必要なかった。それが生きる術なのだから。他の道など模索している余裕がないのだから迷うことなどない。今から思えば、当時記憶を失くしていても、もしくは記憶を失くしていたからこそ、「SeeDは何故と問う勿れ」と教え込まれた精神が息づいていたのかもしれない。
「別に…羨ましがることなんかじゃないだろう。俺は考えようとしてなかっただけだ」
立ち止まって考えて迷って悩んで、それでも先へと進んでいける程自分は強くないだけだ。スコールはそう思っている。悩んで迷っても歩みを止めなかったクラウドのことを、自分が羨ましく思うことはあっても、その逆など有り得ないはずだ。
「だが、あんたは確かに強かった。真っ先に敵に突っ込んで、仲間の為に戦況を切り開く。迷いなくそう出来る姿が羨ましいと思ったよ」
そうじゃない。自分はそれしか出来ないからそうしただけだ。それをクラウドが過大評価しているだけなのだとスコールは思う。なんだか居た堪れなくて、俯きがちに無理矢理話を戻す。
「そんなことはいいから…。それで、アンタは許されたのか?」
それに対してクラウドは、両腕を後ろについて、テントの頂点を見上げながら答えた。
「さあ…判らないな」


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 判らない、そう言う割りに穏やかで晴れ晴れとした様子のクラウドをスコールは訝しむ。スコールには理解し難い態度だ。けれど、自分の記憶しているクラウドの姿よりも、今の方が間違いなく余裕があって安定していることははっきり判る。
「ずっと許されたい、でも許されることじゃない。そんな風に考えていたが…。そうじゃないんだと、解ったんだ」
「そうじゃ、ない…?」
「ああ。許すのも許さないのも、自分だった」
「自分?」
「たぶん最初から、あいつらは許すとも許さないとも思ってはいなかったんだ。…それを罪だとか償いだとか考えていたのは俺の勝手で、あいつらにとっては、許すとかそんな話じゃなかった」
 許されたい、そればかりを考えて生きてきたけれど、クラウドを許すのは、許せるのは、クラウド自身でしかなかった。クラウドが許されたいと思い続ける限り、許されることはない。本当はいつだって、周りの人々はクラウドのことを気に掛け、受け入れてくれていたのに、そこから眼を背けて勝手に罪を背負って勝手に償おうとしていた。
「だから周りの時間から取り残されて生きるのも、償いなんだと思い込んでいたんだ。深く考えなかった。…まあ俺の場合、仲間に長寿の種族がいることもあるかもしれないが」
 もう1つ、同じように罪だの償いだの言って30年近く棺桶で眠り続けるという芸当をやってのけた仲間もいた所為もあるかもしれない、とクラウドは思うが、そこまでは口にしないでおく。
「今までは、それが償いだと思ってたから、全部仕方ないことなんだと思っていた。改めて考えたら、俺だって、怖いよ」
クラウドが視線をスコールへと戻してそう言った。穏やかな口調で、しかし眸は真剣そのもので。スコールも思わずまじまじと見つめ返してしまう。
「だが、俺は1人じゃないともう知ってる」
「……」
「俺の世界では、命はすべて、ライフストリームへと還って星を巡っていく。俺も、いつになるかは判らないが、いつかはそこへ還る日が来る。どんなに先の話でも、必ずその日は来て、その時には、きっとまた仲間に逢える。そう思えるから生きていける。あんただってそうだ。彼女は言ってた。『絶対に逢える』と。『だから待ち合わせ場所を忘れるな』と。どんなに長い道だって、進んでいった先に必ずゴールはあると思えば、進んでいける。眼に見えなくても、声が聴こえなくても、託された想いを忘れなければ、それは、1人ぼっちじゃない」
あれほどまでにスコールのことを想い、幸せになって欲しいと願っていた人達の想いは、きっとこの先いつだって彼を支えてくれるに違いない。スコールが本当に「1人ぼっち」になる時が来るとしたら、それは彼が託された温かい想いを忘れてしまった時だ。
「それに、俺がこの先の永い時間を生きていけると思うのは…」
そこで言葉を区切り、クラウドは珍しくからかうような表情を見せる。
「スコールに、俺の時間を付き合ってもらうと決めてるからな」
 問答無用だ、覚悟しておけ。
クラウドがそう付け加えれば、スコールは眼を丸く見開いた後そっぽを向いた。暫くして、可愛げのない答えが返ってくる。
「……覚悟するのは、アンタの方だ」


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 焚き火を囲んでいたセシルが、クラウドが戻ってきたことに気づいて声を掛けた。
「スコールは?落ち着いたかい?」
「ああ。今はまた少し眠っている」
開けられた場所に腰を下ろし、クラウドが答えると、「また?」とオニオンが眼を丸くする。
「2年近く仮死状態でいたところを、いきなり動こうとしたからな。精神的にも色々あって急激に体力を消耗したんだろう」
クラウドの言葉に、納得したようにオニオンが頷いた。その横から、お疲れ様、とティナがマグカップを差し出してくれる。
「それで、彼は納得したのだな?」
ライトの確認に、マグカップに口をつけながらクラウドは頷いて返した。
「そうか。…よかった」
「完璧に、ではないかもしれないがな。とりあえず現段階では元の世界には還らない…還れないことを受け容れたってところだろう。これから先、また思い詰めることがあるかもしれないが……それはその時またフォローしていくさ」
「なんだか、不思議だね」
笑いながらセシルが口を開く。何がだ、と視線で問えば、セシルは更に笑みを深めて答えた。
「クラウドが、そんなに親身になって面倒見るなんて」
「言えてるかも」
オニオンとティナも笑う。口は挟まないが僅かに口角の上がったライトも同意を示しているのだろう。こういう時に更に茶々を入れそうな面子…バッツにジタン、ティーダはフリオニールも一緒に食材探しに行っているのが救いだろうか。
確かにクラウドは目に見えて判り易い親切さというものとは程遠いタイプだ。仲間を気遣いフォローもするが、それはもっとさりげなくて、先頭に立って行動するようなことはまずなかった。
「…身元引受人、だから、な」
クラウドはその一言で済ませる。
 スコールが彼の世界の仲間たちにどれ程愛されているかを目の当たりにした上で、スコールのことは引き受けると約束した。その責任は重いと思っている。それに。
「1人でなんでもできるようになる」と泣いていた子供。「いつか仲間のいる居心地のいい世界から引き離される時が来る」と諦めていた少年。
あの脆さを、今もスコールは抱えたままなのだろうと思うから。
仲間を得て、強くなったかもしれない。2年前を思い返しても、確かにスコールは強かった。迷い悩み続けていた自分よりも、スコールの方が余程安定していたと思う。けれど、あの脆さを抱えたまま、仲間を得て、孤高の道を貫く強さを持ったスコールは、きっと今度は仲間の為だけに自分のすべてを簡単に捨ててしまう。迷わずコールドスリープという道を選んだのも、その表れなのだろう。大切な人がいなくなる喪失感をトラウマとして抱えているから、相手を失う前に自分が消えようとしてしまう。それは、クラウドが抱えていたものと、似ているようで全く違うベクトルのものだ。
それを知った今、クラウドの中にあるのは、庇護欲、と言うのが1番近いのかもしれない。スコール本人に知られたら、有無を言わさずガンブレードを振り翳されそうだと思うが仕方ない。エルオーネも、スコールのあの脆さを心配したからこそクラウドを過去に接続したのだろうし、たぶん、彼女の思惑通りだろう、護ってやりたい、とクラウドに思わせることに成功した。それを嵌められた、とは思わない。
きっと、永い時間を生きていくにはちょうどいい重さだ。
「保護者、みたいなものだろう?」
 今じゃ6歳差だしな、と言葉を足せば、セシルが「そうだね、ちょっと歳の離れた兄弟みたいなものかもね」と笑った。


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 焚き火を囲んでの談笑を遮ったのは、食材探しに行っていた面々だった。
「大変ッス!!」
1番足が速いという理由で伝令代わりに全力疾走させられたのだろう、ティーダが両手を膝についてゼイゼイと荒い息を繰り返す。
「なにがあった?」
「ティーダ、ケガしてる!」
ライトの質問とオニオンの悲鳴に似た声が重なった。
「あ、大したケガじゃないから、手当てするだけで大丈夫ッスよ、ネギ」
 それにのばらたちもケガしてるから、とティーダはまだ整いきらない息で言う。その言葉に、クラウドとセシルが腰を浮かせる。
「全員怪我したのかい?」
まさか4人で仲良く纏めて転んだわけでもないだろうと、セシルが尋ねれば、コクコクと頷いたティーダは漸く呼吸を落ち着かせて改めて口を開いた。
「イミテーションが出たんだ!」
「イミテーションッ!?」
オニオンとティナが思わず声を上げる。
「それに…あ、3人も帰ってきた」
ティーダが指差す方向を見れば、ティーダと同じように、所々に血を滲ませたフリオニール、バッツ、ジタンの3人の姿。ティーダの言うとおり大した怪我ではないようで安堵する。何しろ彼らは、血を滲ませていてもしっかり探した食材を手に帰ってきたのだから。
「それに、なんだ?」
ライトがティーダに言葉の続きを促す。そうそう、とティーダは視線をライトに戻した。
「今まで見たことない場所に出たっス」
その言葉に、セシルとクラウドが顔を見合わせる。彼らのところまで辿り着いたバッツがそのまま会話に加わった。
「食い物探してフラフラしてたら、いきなり全然知らないトコに出たからびっくりしてさ。そしたら今度はイミテーションが出てくるし、びっくりどころじゃないって」
バッツに半歩遅れて焚き火のところまで戻ってきたジタンとフリオニールもそれに同意を示す。
「順を追って説明してくれ」
ライトの要請に、フリオニールが頷いて腰を下ろした。


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 フリオニールが順を追って説明する。
今彼らがいるのは秩序の聖域と呼ばれるエリア。フリオニールたちはそこから特に目的地を決めずに歩き出した。
2年前の経験から、空間変異による移動先は自分たちの意思である程度コントロールが利くことが判っていたから、特に気負いもなく歩いていたのだという。実際1度目の空間変異では見知った次元城に出たのだ。次元城は実は雑草のように見えて食べられる類の草があちこちに生えていたり、何処から現れるのか突然塀の影から野兎が走り出してきたりするので、彼らは有り難く食料を調達していた。
やがて空間に歪みが生じ、再び変異の兆しが見えた時も、彼らは見知った場所に出ることを疑っていなかった。
「だが、歪みが収まって見えたのは、全く見たこともない景色だった」
それも、今まで見知っていた場所とは違い、家が建ち並んでいて集落のようだったが、少なくとも4人には見覚えのない場所だった。
「家の中も、生活がそのまま残されている様子だったが、人は誰もいなかったよ」
「おかげで結構豪華な食材が手に入ったぜ」
「…大丈夫なの?」
「んー、ジタンは盗賊だしな~」
「あ、バッツ、人をコソ泥みたいに言うなよな!オレよりお前の方がテーブルの上に手を伸ばしたの早かっただろ!」
「おれよりティーダの方が早かったって!」
「え、オレとバッツは一緒くらいッスよ。それより、1番最初にあそこの食べ物貰ってくって手を出したのは…」
「……」
「……」
「…い、いいじゃないか、人はいなかったんだし」
微妙な沈黙がその場を支配した後、気を取り直してセシルが「それで?」と話の続きを促す。
「あ、ああ、それでとりあえず、1度戻った方がいいだろうって話をしてたら、突然イミテーションが現れたんだ」
現れたイミテーションは大した強さではなかったが、如何せん、湧いて出たように数が多かった。そして、手にした食材を意地でも放すまいと頑張った結果、4人は体のあちこちに小さな傷を拵え血を滲ませて帰って来る事になったのだという。
「……お前達の食材への執着はよく解った…」
額を抑えながら、呆れた様子でクラウドが言った。


83


「問題は…かつて歩き尽くしたと言っていいこの世界で何故突然新たな空間が現れたのか、カオスの軍勢がいない今、何故イミテーションが存在するのか」
ライトが腕を組み思案する。ここへ来て発覚した異変は、確実に自分たちが再び此処へと喚ばれた理由に繋がるはず。
そこへ他にも問題があることを指摘する声。
「新たな空間が1つだけなのか…、そこが俺達全員に全く関係のない場所なのか、それも確かめた方がいいだろう」
「スコール!」
テントの中で眠っていたはずのスコールが、彼らの傍まで来ていた。
「体、大丈夫なの?」
ティナが心配そうに問うと、スコールは頷いて返す。ゆっくりと焚き火を囲むその輪の中に腰を下ろす様子からすると、まだ完全な復調とは言い難いようだが、体を動かす感覚はだいぶ戻ってきたのだろう。
「確かに、フリオ達が見たその場所が、僕らに心当たりのある場所かもしれないよね」
オニオンが呟き、セシルやクラウドも同意を示した。ただ問題は、名も知らぬその空間へ、もう1度自分たちの意思で以って辿り着けるのか、だ。
「ここに喚ばれたってことは、オレ達に何かして欲しい事があるってことだよな」
「だが、何をして欲しいのか…」
推測するにはあまりにも情報が少なすぎる。10人が揃えば次の展望が開けるのではないかと思っていたが、そう簡単ではないようだ。
「いや…俺達10人が全員この世界に来た事で確かに変化は起こった」
「最初にクラウドとスコール、ティーダの3人がいなくて僕たち7人だけがここに来たとき、3人を探して歩き回ったけど、あの時点ではそんな見知らぬ空間には行き当たらなかった」
「ねえ」
考え込む仲間たちを見回して、ティナが提案する。
「クリスタルに訊いてみたらどうかな?」
元々クリスタルが輝いたことで自分たちは再びこの世界へと喚ばれたのだ。きっとクリスタルが次の行動の指針を示してくれる。それは安易な考えのようでいて、1番真実に近いのではないか。
「…そうだな」
ライトがその提案を首肯した。他の仲間たちにも異論はなかった。
 それぞれの手に、クリスタルが光る。
彼ら自らの手の内で輝くクリスタルを高く掲げた。
その輝きが新たな道を指し示してくれることを祈って。


84


 輝く10のクリスタル。その輝きは1つに纏まり、天へと真っ直ぐに伸びる。それは、宙に浮かんだ光のスクリーンのようだ。
やがてその光のスクリーンが人影を映し出す。段々と鮮明になるそこに現れた人物は。
「…コスモス!」
驚嘆と共に名を紡がれた調和の女神は、10人の戦士たちを見て微笑んだ。
「どうして…」
2年前の戦いで、自ら「完全なる死」を迎えることで戦いの輪廻を断ち切る道を切り開いたはずのその人が、こうして彼らの前に姿を現した。それに驚かない者などいるわけがない。
「あなたたちが時の輪廻を断ち切り、カオスが果てのない悲しみの鎖から解き放たれ眠りに就いた…。そして私は現世に蘇りました…。大いなる意思の手に依って」
「大いなる意思…」
「この世界は大いなる意思の実験場でした…。戦いの輪廻も大いなる意思に依って仕組まれたもの。私もカオスもまた、実験の駒に過ぎません」
その言葉に、10人の驚きは深くなるばかりだ。2年前の戦いのすべてを自分たちは把握しているわけではない。寧ろ知らないことの方が多かった。辛うじて、コスモスとカオス、どちらかの仮初の死を合図に時を巻き戻し戦いを繰り返していたらしいことだけは知っていたが、それも記憶にあるわけではなく文字通り知っているだけだ。
「私は蘇り、調和と秩序を保ち未来を見守る為に新たな場所へと旅立ちました」
「じゃあ、コスモスは今この世界にいないってことか?」
「そう。今はこうしてクリスタルの力を通してあなたたちの前に姿を現しています」
「俺達を再び此処へ喚んだのは、その大いなる意思とやらか?」
クラウドが剣呑な様子で尋ねると、コスモスはいいえ、と首を振った。
「あなたたちを喚んだのは、私です」
彼女は10人の顔を1人1人見つめてから、口を開く。
「あなたたちに、この世界を止めて欲しいのです」