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魔女っ子理論1~14

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DFFED後、それぞれが本来あるべき世界に戻ってから2年ほどの月日が流れた頃。
平和な生活を営んでいたコスモスの戦士たちの許で、ある日突然、本来の世界に還った後いつの間にか消えたと思われていたクリスタルが輝き始める。
「あの世界が自分を呼んでいる。何か自分を必要とする事態に陥っている」と確信した彼らは、クリスタルの輝きに身を委ねる。眩い光がおさまって、目を開ければそこは懐かしい異世界・秩序の聖域・・・。
もう二度と逢うことの叶わないと思っていた懐かしい仲間たちの姿に、彼らは再会を喜ぶが、そこにいてしかるべき仲間の姿がないことを疑問に思う。
その場に姿があるのは、ライト・フリオニール・オニオン・セシル・バッツ・ティナ・ジタンの7名。
7名は相変わらず突然の空間変異を繰り返す世界を巡り、残るクラウド・スコール・ティーダの姿を捜すが見当たらない。最後に辿りついた夢の終わりで立ち止まり、自分たちがここに喚ばれて、彼らが喚ばれない道理がないと考えたライト達は1つの推測をする。彼らはこちらに来られない事情があるのではないか、と。
しかし7名が揃った段階で何も起こらなかったことを考えると、10名全員が揃わなければ再びこの世界に喚ばれた意味は解らないのではないかという結論に達した彼らは、残る3名を迎えに行き、こちらに来られない事情があるのなら手助けしようと決意する。
けれど「どうやって?」と頭を捻った彼らの前に、突然見知らぬ少年が現れた。
「キミたちの力を貸して欲しいんだ」と少年は言う。
「僕たちの力だけじゃ、ダメかもしれない。僕たちの力は殆どなくなってしまったから。だけど、キミたちの力を借りれば、上手くいくと思う」
「上手くいくって、一体何が?」
警戒しつつもオニオンが問うと、少年は答えた。
「ティーダを、戻したいんだ」
戻したい。その表現に首を傾げる7人。だがライトが1歩進み出る。
「それで、彼の助けになるのだな?」
「うん」
その言葉に、彼らは頷きあう。それこそこちらの望むところだ。
「ありがとう。それじゃあ、行くよ」
少年の手が掲げられる。それに呼応するようにクリスタルが輝き始め、辺りを光が包む。
光が消えたとき、彼らは不思議な光が漂う場所に立っていた---



謎の少年に導かれるまま、見知らぬ世界へやってきた7名は、ゆらゆらと揺れる光が、夢の終わりに漂っていたものと同じであることに気づく。
「これって、ティーダの世界ってことでいいんだよな?」
バッツの問いに、恐らく、と頷く仲間たち。気づけばあの謎の少年の姿も見えない。どうすればいいのか、と戸惑っていると、どこかから声が聞こえてきた。
とりあえず声のする方へと行けば、何か大きな機械と対峙する者たちの姿が。向こうからこちらは見えないようだが、真ん中に立つ少女の言葉ははっきりと彼らの耳にも届く。
「いるはずの人たちがいない。一緒に喜びたかった人がいないの」
その言葉に、彼らは直感的に悟る。今、この世界に、ティーダはいないのだ、と。
彼らは、その場で、見知らぬ者達の戦いを見届ける。
戦いが終わり、彼女たちが何処かへと帰っていくのを見守っていると、謎の少年が姿を現した。
「ティーダは、僕らの長すぎる夢を終わらせるために頑張ってくれたんだ」
そういって、少年はこの世界に起きたことを掻い摘んで説明する。ティーダや、あのジェクトまでもが夢の存在であったという事実、ティーダが2年前、消滅する直前に異世界に喚ばれたことを聞き、彼らは当時のことに思いを馳せる。消えると知りながらいつも明るかったティーダの強さに驚嘆しながら。
「僕たちは、ティーダをあの子のところへ戻してあげたい」
「それってさ、つまり、アイツを召喚するってこと?」
ジタンが恐る恐る尋ねると、少年は頷いた。
「召喚って言っていいのか判らないけど、僕たちがもう一度ティーダの夢を見て、キミたちの力を借りて現実に連れて行く。僕たちの力はもう殆ど残ってないから、彼をずっと現実に留めることはできないんだ。でも、キミたちの持ってるそのクリスタルの力なら、ティーダを現実にすることができると思う」
「私たちは、どうすればいいの?」
「祈って欲しい。ティーダを戻したいって。還ってこいって呼びかけて欲しい」
7人はしっかりと頷くと、それぞれのクリスタルを胸に掲げる。光を放ち始めるクリスタル・・・。
「還って来い」
「ブリッツボール、教えてくれるんだろ?」
「じっとしてるなんて、ティーダらしくないと思うけど」
「君を、待ってる人がいるよ」
「おれ達だって、お前に会いたいよ!」
「聞こえてる?皆、待ってるの」
「レディを待たせちゃエースじゃないぜ?」
呼びかけに呼応するようにどんどん強くなるクリスタルの光。やがてそれが弾けて辺りが白く包まれる。
彼らの耳には「ありがとう」という少年の声が届いていた。



抜けるような青い空。その色を映す青い海。
ライト達7人は眩しい太陽の光の下に立っていた。彼らの眼に映るのは、あの少女と、そして彼らのよく知る仲間の姿。
「ティーダ!!」
駆け出したのはバッツとジタン、遅れてオニオンとフリオニールとティナ。その後をゆっくりライトとセシルが歩いていく。
「みんな…。みんなの声が聴こえたの、夢じゃなかったっスね!」
「おうよ、こっの、手間かけやがって~!」
バッツとジタンにタックルされて砂浜に転び、起き上がれば今度はオニオンにタックルされ。
「うわ、ネギっスか!?なんかデッカくなってる!」
「キミが暢気に寝てる間に、僕はちゃんと成長してるんだよ」
「生意気なトコは変わってないっス!」
一通り再会を喜びあったコスモスの戦士たちは、不思議そうに自分たちを見守っているユウナや他の仲間たちとも自己紹介を済ませ、この世界でティーダの知らない2年間に起こったことをティーダと共に聞く。そして彼らが再び異世界に喚ばれたことや、謎の少年に導かれてこの世界に来た事を話した。
「そっか。じゃあ、行かなきゃなんないっスね」
言葉と共に、ティーダは大切な相手を振り返る。
「行くんだね」
「今度はちゃんと帰ってくるからさ!ちゃんと、指笛鳴らすから。だから、待っててくれる…っスか?」
「もちろん!…私も、どうしても待てなくなったら、指笛鳴らすっス!」
「そしたら今度は絶対、ユウナんとこに駆けつけるから」
「駆けつけさせるから任せとけ!」
後ろでバッツが胸を叩くと、ユウナが笑って頷く。
「今度は、さよならじゃなくていいんだね。行ってらっしゃい、でいいんだよね」
「うん。行ってくるっス」
それぞれのクリスタルが輝き始める。ティーダの手にも、スフィアの形をしたクリスタルが現れ輝きだした。
いってらっしゃい、と手を振るユウナに、いってきます、と手を振り返すティーダ。
溢れる光の中にその姿が溶け込んでゆき。
次の瞬間、8人は異世界に戻っていた。



8人は次の行動を思案する。
「クラウドとスコール、どっちかのとこに行ければいいわけだが…」
フリオニールの言葉に、ティーダが疑問を挟んだ。
「オレのとこに来たときはどんなカンジだったんスか?」
状況を知らないティーダにフリオニールが説明すると、もしかして、とティーダが呟く。
「夢の終わりは、オレの世界の断片で、幻光虫も飛んでたから、祈り子の力が届いたってことじゃないかな」
「つまり、彼らの世界の断片に行けばなんとかなる、と?」
「となると、星の体内と、アルティミシア城か?」
かつて何度も戦いを繰り広げた2つの場所を思い浮かべ、彼らは思案する。
「確か、星の体内は、ライフストリーム、とかってクラウドが言ってた覚えがあるよ」
オニオンがそう言えば、そうね、とティナも頷いた。
「クラウドの世界…星を巡る、星の力そのものだって」
「幻光虫と似たようなもん、っスかね」
「アルティミシア城には、それっぽいもんないよな」
「スコールも、あの場所自体には特になんの拘りもなかったっぽいよな」
スコールと共に行動する機会の多かったバッツとジタンが、記憶を辿る。
「とりあえず、星の体内に行ってみるってことでいいんじゃないかな?」
セシルがそう提案すれば、ライトも頷いた。闇雲に動くより可能性の高いほうに賭けた方が懸命だという判断だ。
8人は星の体内までやってくる。
「ティーダの時は、どうしようかと思ってたらあの少年が現れたんだよな」
「今回も上手くいくといいけど…」
そう話していると、ライフストリームの動きがふっと、変わる。
「お願い、してもいいかな」
聴こえてきたのは、女性の声。8人は声の主の姿を捜すがどこにも見当たらない。
「クラウドの、お手伝い、してくれる?」
「お手伝いってなんだか可愛い響きね」
ティナがそう言うと、他の7人も苦笑する。
「いや~、それが結構バイオレンス?あいつも全然吹っ切ってないし」
突然、男性の声も聴こえてくる。
「我らで、手助けできることなのだな?」
ライトが見えない声の主に問い掛けると、姿は見えないまま、ふっと笑う気配だけがした。
「あんた達なら十分だ。…頼むよ」
その声に彼らは頷く。仲間を助けるのは当然だと。
「お願い、ね」
声と共に、ライフストリームが彼らの体を包んでいく。空間変異のときに感じるものより数倍強い浮遊感。
それが治まった時、彼らは灰色の空の下、見知らぬ大地に立っていた。



初めて見る景色。全体的にグレーがかった街並み。見たこともない造りの建物。
各々の暮らしてきた世界とは全く違うその景色に、思わず呆然と辺りを見回すライト達(除ティーダ)
クラウドに会う為に街の中で情報を集めようという結論に達したとき、街の中央にバハムートに似たモンスターが現れる。逃げ惑う街の人々を襲うモンスターを蹴散らしながら、バハムートらしきものの近くに辿りついた彼らは、そこで戦うクラウドとその仲間らしき者達の姿を発見した。
バハムート震を倒したクラウドは、そのまま、バイクに乗ってガダージュを追い掛けてしまう。果たしてこれ以上どうすればクラウドの手助けが出来るのか考える彼らに、再び声が呼びかける。
次の瞬間、彼らはまるで星の体内…つまりはライフストリームの中に立っていた。目の前でにこにこと笑いかけてくる長い茶色い髪の女性と、彼らの記憶にあるクラウドの服と同じものを来た黒髪の青年。
「クラウド、頑張ってる、よ」
そう言う彼女の後方に、激しい戦いを繰り広げるクラウドの姿が透けて見える。
「あいつが自分で吹っ切んなきゃいけないことなんだ」
「だから、見守って、ね?」
その言葉に、ただじっと、どんな些細な動きすらも見逃さないように、クラウドの戦いを見守る8人。
決着がついたと思われた直後、銃弾に倒れたクラウドの姿に、全員息を呑む。
「大丈夫、助けるよ」
黒髪の青年が言う。
「お手伝い、お願い」
「僕らはどうすればいいの?」
オニオンの問いに、彼女は微笑む。
「祈って」
青年は笑う。
「こんなとこ来てる場合じゃないだろ、て尻引っ叩いて帰してやってくれ」
その言葉に彼らは頷いた。
「それくらいならお安い御用だっ」
バッツ・ジタン・ティーダの声が重なった。
彼らの手の中で輝き始めるクリスタル。
「君は此処で終わるような者ではないだろう」
「まだ夢を叶えてないじゃないか」
「悩んでばかりじゃ進めないよって、前にも言ったじゃない」
「答え、君はもう見つけてるんじゃないかな」
「だーかーらー、迷う前に動けって!」
「たくさんの花が咲いてる世界、見よう?」
「待っててくれる人たち、いるんだろ?」
「バビューンと帰るっス!」
仲間たちの言葉に、彼と彼女が微笑んだ。
そしてクリスタルの光が溢れてライフストリームと混ざり合い…。
それは大きな波のように世界を覆った。



ミッドガルの教会に集まる人々。星痕症候群が治ったことを喜ぶ人々の中心にいるクラウドを、微笑んで見つめている2人と8人。
「お手伝い、ありがとう」
「これから色々あんだろうけど、あいつのこと、よろしく頼むわ」
慈しむような表情でクラウドの方を見遣った彼と彼女が消えていく。2人の気配を感じ取ったらしいクラウドが此方を見て、そのまま驚きに眼を見開いた。
近寄ってくるクラウドに「よっ!」と声を掛ける仲間たち。
「…声を聴いた気はしていたが…」
そう言うクラウドと、何事かと寄って来た、この世界でのクラウドの仲間たちにも事情を説明する8人。
「…解った」
クラウドが短く答えると、その手をきゅっと握る小さな手。
「クラウド、またどこか行っちゃうの?」
見上げてくるマリンの頭に手を置き、クラウドは「ああ」と答える。
「…帰ってくるよね?」
「帰ってこないなんて言わせないから」
クラウドが答えるより早く、ティファが言った。その後ろで「うんうん」と頷いているユフィとナナキ。
「ああ。大丈夫、ちゃんと帰ってくる」
微笑んで答えたクラウドに、マリンが安心したように手を放す。クラウドが異世界の仲間たちを見た。
「行くか」
その様子に、バッツが呟く。
「…なんか、クラウド、落ち着いたな~」
「つーか、ちょっとデカくなったよな?」
ティーダが首を捻る。
「20歳過ぎても伸びるヤツは伸びるってことか。よし!」
ガッツポーズを取るジタン。
「では行こうか」
ジタンのガッツポーズは無視してライトが言う。彼らの手に光るクリスタル。
クラウドの手にも、マテリアのようなクリスタルが現れ輝き始める。後ろでユフィが「マテリア!」と叫んでいるが、シドの手で口を塞がれる。
手を振るティファにクラウドが振り返り小さく頷いたとき、光が弾けた。
次の瞬間、9人は異世界の大地に立っていた---。



異世界へと戻ってきた9人は迷いなくアルティミシア城へとやってくる。
この場にいない最後の仲間・スコールを迎えに行かねばならない。
「でもここは、その幻光虫?とか、ライフストリーム?とか、そういうのは全くないが、大丈夫なのか?」
フリオニールの疑問は尤もで、夢の終わりも星の体内も、本来の世界と同じエネルギーがあったからこそ、あんなに簡単に接続することが出来たのだろうという推測は誰もが持っていた。
「ティーダの時もクラウドの時も、向こうから呼んでくれたからね」
「今回もそれを待つしかないってことか」
ただ、その呼んでくれる相手の力が、この場に届くのかどうか不安が残る。
「クリスタルが連れていってくれたりしないかな?」
ティナの言葉に、オニオンが首を振った。
「解らないけど…僕たちのクリスタルはスコールの世界を知らないから」
あちらから呼びかけ、導いてくれる力があれば、クリスタルの力はそれを助け彼らを向こうへと運んでくれるのだろう、と続ければ、「そっか、そうだよね」とティナは頷く。
自分たちではどうしようもない状況に、ただその場に佇むしかできない9人。
「待ってる間にスコールが自分でこっち来たりして」
「そしたら全部解決だよな~」
「こっちが行っても、何しに来た、とか不機嫌そうに言われたりして!」
「うわ、ありえる!」
バッツやジタンの軽口に、その場が和んだとき、クラウドがふと上空を見た。
「あれは…」
その言葉に、全員がクラウドの視線の先を見る。月明かりの天井からひらひらと落ちてくる白いもの。
「…白い、羽根?」
たった一枚の羽根がひらひらと彼らのところへ舞い落ちてくる。
「そういえばさ、2年前、皆が還るとき、スコールのとこに白い羽根が落ちてきて、スコール、それを持ってた」
オニオンが思い出したように言うと、全員が顔を見合わせる。
「この羽根が、導いてくれるということか」
ライトの呟きに、ティーダが同意しつつも首を捻った。
「でも、1枚だけって、頼りなくないっスか?」
「やはり、ここにはスコールの世界と繋がるようなエネルギーがないから、だろうな」
「その分、俺達が祈ればいいんじゃないか」
フリオニールが全員を見回す。それしかないと、全員が頷いた。
それぞれがクリスタルを手に祈る。輝きだすクリスタル。
この輝きが、あの羽根の導くところへ連れて行ってくれるように。
9人の想いが1つになった時、再び羽根がふわふわと舞い上がった。
そしてまた光の洪水。
それが止んだとき、彼らは海辺に立っていた。



青い空、青い海。穏やかな波打ち際。少し離れた向こうには白い壁の美しい街並みが見える。
「…なんか、スコールの世界っぽくない」
オニオンの言葉に盛大に頷くバッツ・ジタン・ティーダ。
「スコールの雰囲気からするとさ、クラウドの世界みたいなカンジの方が驚かないよなあ」
「個人のイメージで勝手に世界を想像するほうがおかしいだろう」
クラウドが尤もな意見を述べるが、そういう本人も内心では「意外だ」と思っているのだから始末に負えない。
「とりあえず、ここからどうするか、だな」
「スコールの世界に来さえすれば、すぐにどうにかなると思ってたんだけどな」
ティーダの時も、クラウドの時も、然程時間が経たないうちにすぐに状況に変化が生じたので、今回も、と単純に考えていたのだが、どうもここでは勝手が違うようだった。
「とにかくスコールに会う為の手がかりを探さなきゃならないな」
「その前に、まず最初に確認しなきゃいけないんじゃないかな」
セシルの言葉に首を傾げる一同。
「ここが本当に、スコールの世界なのかどうか、をね」
「……あ」
根本的なことに思い至っていなかったことに気づく8人。あの頼りない羽根1枚の導きで、本当に来るべき場所に来られたのかを確認するべきだった。
「お、釣りの爺さん発見!ちょっと訊いてくるっス!」
こういうときフットワークの軽いティーダが真っ先に駆け出していった。
人見知りも物怖じもしないティーダはこういう時には適任で、しばらく釣り人と話して帰ってくる。
「ここ、バラムってとこだって。バラムフィッシュが美味いらしいっス」
「そんなグルメ情報まで聞いてきてどうする」
クラウドが思わずツッコミを入れた。
「バラム…。スコールは元の世界の記憶殆ど憶えてなかったから、あんまりそういう話しなかったんだよな」
「私、覚えてるよ」
ティナが小さく手を挙げる。
「初めて会った時、皆自己紹介したでしょ。あのとき」
その言葉に、フリオニールも「そうだ」と続けた。
「そうだ、確かあいつの挨拶は…『スコール・レオンハート。バラムガーデンのSeeD…傭兵だ』って」
「じゃ、やっぱりここはスコールの世界なんだ!」
オニオンの顔がパッと輝く。
「行き先も決まってよかったね」
セシルも微笑む。
「そのバラムガーデンってとこに行けばスコールに会えるんだな!」
バッツの科白に、全員が頷いた。



バラムガーデンというところが、スコールの在籍する組織であり、戦闘に関する知識や技術を学ぶ傭兵養成機関だ、ということは以前スコールに聞いて知っていた。2年前に共に過ごした間、スコールは自身の本来の世界に関する記憶を殆ど忘れていた(自分の名すら判らないライトという存在の所為であまり目立たなかったが、実は記憶喪失の度合いはそのライトに次ぐ酷さだとだいぶ後になって判明したのだ)から、逆に言えば、9人がこの世界について持っている情報はたったそれだけしかない。
白い壁の眩しい街並みがこの大陸の中心地であるバラムの街で、バラムガーデンは9人が最初に降り立った浜辺を挟んで反対方向の、すこし内陸に入ったところにあると、釣り人に教えてもらった。普通なら車を使う距離だが、歩いていけないこともない、と。
「車って、荷馬車のことか?」
歩きながら極々真面目な顔で訊いたフリオニールの問いに、「荷馬車…じゃないっスね」とティーダが苦笑いして、自分では上手く説明できないとクラウドを見た。話を振られたクラウドも考えあぐねていたが、やがて口を開く。
「俺の世界に来たとき、俺がバイクに乗ってるのは見たんだろう?」
「ああ、あのすっごい速い乗り物!」
興味を持っていたのだろう、オニオンが反応した。
「俺のバイクは特殊だが…。普通は前輪と後輪の二輪のものをバイクと言う。車というのは、同じような仕組みを持った四輪の乗り物で、多人数の移動に適している」
「へぇ、そういう乗り物があるんだ」
そんな話をしながら、言われたままに歩いていると、やがて前方に大きな建物が見えてくる。大きな円形のそれこそが、彼らの目指すバラムガーデンなのだろう。
漸くスコールと再会できる、その思って敷地に入ろうするが、門は開かない。
「あんたら、ガーデン関係者じゃないなあ?カードリーダーにIDカードを通さんと門は開かんよ」
守衛の老人に言われ考え込むクラウド。ティーダはIDカードやカードリーダーというものがどういうものなのかを仲間たちに説明するのに必死だ。
「ここにいる知り合いに会いに来たんだが、話を通してもらえないだろうか」
「そりゃ構わんよ。生徒にここまで来てもらって身元を証明できれば来賓として入れるぞい」
老人の言葉にほっとした。何しろ、部外者どころか、この世界の住人ですらない自分達では、自力で身分証明など到底無理な話だ。
端末を弄っていた老人が「その知り合いの名は?」と尋ねてくる。
特に何の気構えもなく、クラウドはその名を口にした。
「スコール・レオンハート、だ」
「なんだって?」
老人が驚いた顔で彼らを見る。
その理由に全く見当がつかず、彼らは互いに顔を見合わせた。


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「お前さん、今、スコール・レオンハート、と言ったかね?」
老人の確認の言葉にクラウドは頷く。
「あんたらは彼の知り合いかい?」
「ああ。2年前、特殊な状況で知り合ったんで、バラムガーデンのSeeDだ、ということしか聞いていない。こちらにも色々事情があって、あいつに会わねばならないんだが…。いないのか?」
クラウドの言葉を暫く反芻していたらしい老人は、厳しい表情のまま手許の端末でどこかに連絡を取り始めた。特殊な状況、という言葉に疑問を持たれるかと身構えていたクラウドはほっと息を吐く。おそらく、仲間たちの格好がここではプラスに働いたのだろうと冷静に判断する。何しろ仲間たちの格好ときたら、2年前と違って鎧姿ではないし武器を携えてはいないものの、この世界では明らかに異質なのだ。舞台衣装のまま出歩いているか、もしくはどこか僻地の民族衣装なのだと思われるのが関の山だろう。今回は恐らく後者だと判断されて、特殊な状況即ち世間の情報から取り残された辺境で出逢った少数民族くらいに思われたに違いない。
そのクラウドの後方で、小声で交わされる会話。
「なんか、あのじいさん、スコールの名前言った途端顔険しくなったよな?」
「あれだ、実はスコールは数々の悪行を重ねた問題児だったり」
「数々の悪行ってなんなのさ?」
「そりゃ、あれっスよ、真夜中に窓ガラス壊してまわったり、盗んだバイクで走り出したり」
「…お前たち、それを本人の前でも言ってみたらどうだ?」
「そんなことしたら、確実にヒールクラッシュであの世逝きになるだろ!」
そんな緊張感の欠片もない会話を続けていると、老人が「とりあえず来てくれ」と言っているのが聞こえる。
「どうやらここまで来てくれるみたいだね」
「やっと会えるね」
「時間が掛かったな」
9人はそこに無口で無愛想な仲間が現れることを疑っていなかった。
だが、暫くして低いモーター音を響かせて、不思議なボードに乗ってそこにやってきたのは。
「アンタたちが、スコールの知り合いって連中か?」
トサカのような金髪に、顔のタトゥーが印象的な、彼らの全く知らない人物だった。


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トサカ頭の青年は、9人をしげしげと眺めている。
「男8人と女の子1人…。合ってるか」
何やらぶつぶつと呟くと、近寄ってきた。
「ええとよ、なんつったらいいんだ…?スコールと、一緒に任務を果たしたってのはアンタら?」
問い掛けている本人もよく解っていないらしいのに、問われたほうが瞬時に理解できるわけもなく、彼らは互いに顔を見合わせる。しばらく視線の意思疎通が行われた後、今この場では外国人ツアー客を連れた通訳のような立場で仲間の代表者扱いをされているクラウドが口を開いた。
「俺達は任務とは思っていなかったが、スコールは確かに任務、という表現をよく使っていたな」
それに頷いた青年は「じゃあ」と続ける。
「アンタらがスコールと会ったのって、『ここより遥かに遠い世界』?」
その問いに彼らは確信する。この青年はスコールから2年前の出来事を断片的にでも聞いているのだろう。
「ああ、そうだ」
「…わかった。とりあえず、中に入ってくれよ。爺さん、門開けてやってくれ!」
「ほいよ!」
トサカ頭の青年の案内で建物内へと入る9人。明らかに異質な衣装の彼らにあちこちから好奇の視線が投げられるが、それはお互い様で、彼らは彼らで何から何まで初めて見る光景に興味津々でキョロキョロ見回している。普段どちらかというと嗜め役に回る事の多いフリオニールまであちこち物珍しそうに見ているし、落ち着いた様子は崩さないライトすら、キョロキョロしたりはしないものの興味深げだ。
エレベーターに乗るときも「バブイルの次元エレベーター」だの「ルフェイン人の叡智」だの、なんだか壮大な話になって大盛り上がりだった。この世界の文明レベルに元々ついていけるが故に、その盛り上がりに入りきれないティーダが逆に悔しがるほどに。
エレベーターが3階に着くと、トサカ頭の青年に促されてとある部屋の前に立つ。
青年が横のパネルを押してシュッと開いたドアの先に立っていたのは、金髪の美女と、40代と思しき壮年の男性だった。


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「彼らが、スコールのお知り合いという方々ですね?」
壮年の男性の言葉は彼らをここまで連れてきたトサカ頭の青年に対するものだ。
「そうだ…じゃない、そうです、学園長。たぶん、前にスコールが言ってた遠い世界の仲間、ってヤツ」
その言葉に学園長と呼ばれた男性は頷くと、彼らに座るよう勧める。
「あなたたちの話を聞かせてもらいたいんですが、いいですね?」
確認の言葉にライトが頷いた。
「構わない」
「ありがとう。申し遅れましたね。私はこのバラムガーデン学園長のシド・クレイマーといいます」
「SeeD兼教官のキスティス・トゥリープです」
「あ、オレはSeeDのゼル・ディン!よろしくな!」
「やだ、ゼル、貴方正門からここまで案内してくるのに名乗りもしなかったの?」
「いやだってよ、なんか色んなもん見て盛り上がってるから名乗りづらくてさ…」
ゼルが頭を搔きながら答えると、「色んなもん見て盛り上がって」いた自覚のある彼らも苦笑いするしかない。
とりあえず、シドに促されて応接用のソファに9人が腰を下ろし(と言っても実際ソファに座れたのはライト・クラウド・セシルの3名のみで後は、デスクチェアやどこかから持ってきた折り畳み椅子で何とか数を賄った)、その向かいのソファにシドが腰掛け、左右の一人掛けソファにキスティスとゼルがそれぞれ落ち着いたとき、奥の部屋から黒髪の女性がコーヒーを持ってやってきた。彼女は全員にコーヒーを配ると、シドの隣りに腰を下ろした。
「妻のイデアです。さあ、準備は整いました。私達は、2年前、スコールが何かとても特殊な体験をし、彼はそこで9人の仲間を得た。それだけしか知りません。あなたたちの知っている事を、最初から教えて貰いたいのです」
シドの科白に、ソファに座ったライト・クラウド・セシルは視線を交して頷く。
 この3名がソファに座ったのにはちゃんと彼らの中で理由があり、仲間たちのリーダーであるライト、恐らくこの世界の事情を一番理解できるであろうクラウド、そして仲間内で最もこういった状況説明を上手くこなせるだろうセシルとなったのだ。
その説明役のセシルが、クレイマー夫妻とゼル、キスティスの顔を順に見ながら口を開いた。
「始まりは、2年前、スコールを含め僕たち10名がとある場所に喚ばれたところからです」


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穏やかな語り口調でセシルは順を追って話す。
彼ら全員が、それぞれ全く接点のない世界の住人であること。2年前、更にそれらの世界とは空間も時間も異なる、異次元とも言うべき異世界に召喚され、調和の神コスモスと混沌の神カオスの戦いに身を投じ、それがその閉じられた世界で繰り返されてきたらしいこと。最後の戦いで彼らはコスモスの戦士として戦いの輪廻を断ち切り、それぞれの世界へと還ったこと。もう2度と逢えないと思っていた彼らだったが、今になって突然、再び異世界へと喚ばれたこと。しかし、全員喚ばれただろうに、姿を見せない仲間がいたこと。恐らく、全員が揃わないと再び喚ばれた理由が判明しないだろうと推測されたこと。状況を打破するため、仲間を迎えに行こうと考えたこと。
「…解りました。見たところ、スコールが最後、ということですね?」
シドの言葉に、セシルが頷いた。
「こんなことが本当にあるのね…」
キスティスが頭の中を整理するように呟く。それに「そうね」と相槌を打って、今まで黙って聞いていたイデアが彼らを見回す。
「1つ、訊いてもいいかしら?」
「何か?」
「その、異世界から、こちらへは、そのクリスタル?だったかしら、その力で簡単に来られるものなの?」
「いいえ。今回のように自分たちの知らない世界へと来るためには、僕たちを導いてくれる力がないとたぶん無理です」
セシルの答えに、イデアとシド、キスティス、ゼルが顔を見合わせた。
「じゃあ、貴方達をここへ導いた存在がいるっていうこと?」
キスティスが問えば、「今回はすげー頼りなかったっスけどね」と彼女の近くに座っていたティーダが答えた。
「頼りない?」
「白い羽根1枚きりだったから」
「羽根ェ?それが連れてきてくれるなんて、よく信じられたな」
ゼルが驚いたように言うと、困ったようにティナが微笑む。
「2年前、あそこから還るとき、スコールが白い羽根持ってたから」
その言葉に、シド達が反応した。
「2年前、還ってくるときにも持っていたんですね?」
確認のセリフに、「はい」とティナが答えれば、シドがキスティスを見て口を開く。
「キスティス。至急、リノアに連絡を取って下さい」


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シドの言葉に即座に「はい」と答えたキスティスが携帯電話を取り出した。
だが、彼女が操作するよりも早く、着信音が響きだす。
一瞬忌々しそうにディスプレイを眺めたキスティスは、渋々といった様子を隠さず通話ボタンを押した。
「はい。今取り込み中だから後に…って、ちょっと、なに」
部屋にいる全員がキスティスに注目している。尤も、この世界の文明に慣れない面々は、彼女が持っている小さな物体への興味で、だったが。
「なんでこんなノイズだらけなの?え?…エスタ?聞こえないってば!」
自分を注視する視線に、少し気拙そうな顔をしつつ、キスティスはノイズだらけの音声をなんとか拾っていた。
「はぁ!?迎えに来いって、貴方何処にいるのよ?…石の家!?なんでそんなとこに…え?待って、何でそんなとこにあの子が…って、ちょっと待ちなさいってば!サイファー!」
最後は叫ぶように声を荒げたキスティスが、呆然と自分の手の中の電話を見る。そうして1つ大きく溜息を吐くと、シドに向き直った。
「図らずも、ですが、リノアと連絡がつきました」
「リノアと?今の電話はサイファーからでしょう?」
その問いに疲れたように頷くと、「私にもさっぱり」と言って続ける。
「リノアと一緒に、石の家にいるんだそうです。行きは送ってもらったけれど、帰りの足がないから迎えをよこせ、と。…あんの、バカサイファー!」
最後のセリフは彼女の個人的な叫びだろう。まあまあ、と宥めたシドが今度はゼルの方を向いた。
「ゼル、すみませんが、ラグナロクの発進準備をお願いします」
「了解っ」
ゼルが勢いよく学園長室を飛び出していくと、シドは改めて9人に向き直った。
「スコールは、今、ここにはいません。あなた達を導いた力というのには、推測ですが心当たりがあります。ちょっと、場所を移しましょう」
「…わかった」
シドの言葉にライトが代表して答える。どの道、勝手の判らないこの世界で、スコールと再会する為には彼らの手を借りねばならないのだ。彼らに従うことに異論はなかった。
「学園長…」
不安げな様子のキスティスが声を掛けると、答えたのはシドではなく、イデアだった。彼女はキスティスの傍まで近寄ると、優しく肩を叩く。
「私たちも行きましょう。もしかしたら、彼らが、私たちがこの2年弱の間ずっと出せずにいた答えをだしてくれるのかもしれません」