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Last Christmas




 クリスマスだ、とはしゃぎ出したのはティーダだった。
クリスマス、というものが何だか解らない仲間たちに、「白い髭の太っ腹なじーちゃんが世界中の子供たちにプレゼント配ってくれる日ッス」という説明になっているんだかなってないんだか微妙な回答をし、「クリスマスの前日がクリスマス・イブ!友達とパーティーしたり、家族でご馳走食べたり、あとはなんと言っても恋人同士でイチャイチャするッス!」と付け足し、更に「今日はイブだから、皆でパーティーしよう!」と言い放った。
 そもそもの切っ掛けは、スコールの腕時計だ。
この異世界に於いて時間や日付の概念はないに等しく、つい先刻まで十時を差していた時計が一瞬目を離した隙に何故か八時半を差していた、なんてことも珍しくなく、時計はこの世界では全く役に立たない。それでも、元の世界の記憶が殆どなくても身に着いた習慣は消えず、レザージャケットの袖を少し捲くり左腕に嵌めた腕時計を見てしまうことが時々あった。
偶々スコールが腕時計を見た時に傍にティーダがいて、そして偶々、スコールの腕時計のカレンダーが十二月二十四日を示していた。それが切っ掛けだった。
 ティーダの提案に予想通りというか、バッツとジタンが嬉々として食いつき、なし崩しにパーティーになった。勿論、飾り付けもご馳走もこんな世界では用意などできないが、いつもより食材を多く使って料理の種類を増やすくらいはできる。「メリー・クリスマス」と乾杯すればそれだけでちょっとしたパーティー気分になれるのだ。
いつも以上に賑やかな夕食を終え、後片付けとテントの設営も済ませたところで、ティーダに「イブの夜っつったら、恋人たちのイチャラブタイム!」と力任せに背中を押され、四つあるテントの内の一つへと勢いで突っ込んだら、そこにいたのは驚いてこちらを見るフリオニールだった。
 そして状況は今に至る。
隣りに座って、落ち着かない様子のフリオニールにこっそり溜息を吐いた。
「…フリオニール」
「な、なんだ…?」
「落ち着け」
 恋人、と呼べる関係になったのはつい最近で互いにまだ多分に照れがある。そんな時にこんなシチュエーションを提供されても戸惑うだけだ。だいたい、薄々気づいてはいたが、やはり仲間たちに知られていたか、というのもどうにも気恥ずかしい。
イブの夜に二人きりのテント。そのお膳立ての意味が解らないほど鈍くもないが、それこそ心の準備というヤツが必要なのだ。
「…すまん」
自分の挙動不審振りを顧みたのか、フリオニールが隣りに項垂れた。その様子が可笑しくてスコールが微かに笑うと、フリオニールはハッとスコールの方を見て、それからその浅黒い肌を真っ赤にする。
「おまえ、反則だ…」
「…なにが?」
「滅多に笑ってくれないのに、こんなときに笑うなんて…」
フリオニールはそう言うと、顔を赤らめたままスコールの向かいへと移動した。彼の右手を手に取り、いつも嵌めている黒いグローブを外すと色白の手が現れる。浅黒い肌のフリオニールの手に包まれていると、スコールの手の白さが際立って見えた。
「クリスマスって俺のところにはなかったから初めて知ったが、その…恋人同士が盛り上がる日、なんだろ?スコールと、そういう日を過ごせて、本当によかったと思うんだ」
 戦いの連続の殺伐とした世界で、心の底から愛しいと思える相手と出逢えたこと、その相手からも想って貰えること、周囲の人達がそれを祝福してくれていること、すべてが奇跡的で、すべてに感謝したい。
真剣な眸でそう告げるフリオニールに、自然とスコールも真っ直ぐに彼を見つめて口を開いた。
「俺も、アンタとクリスマスが過ごせてよかった…」
 デタラメな動きをする時計が偶々指し示した日付であっても、雪も降らなければツリーもケーキもプレゼントもなくても、自分たちにとって今夜は間違いなくクリスマス・イブで、そしてきっと一番想い出に残るクリスマスになる。
刻一刻とカオスとの戦いが近づいている今を考えれば、たぶん、もう一度クリスマスを共に過ごせはしないだろう。勝っても負けても、その先にあるのは別れだ。
「スコール…」
俯いてしまったスコールの頬にフリオニールの手が添えられる。
その手に促されるように顔を上げたスコールがその眼をそっと伏せたら、後は無言だった。
 
 
 
「ん…、ぁっ」
体内で蠢くフリオニールの節くれだった指の動きに合わせて、スコールの口から声が洩れる。初めのうちに感じた痛みはもう殆どない。互いにこういったことは不得手で、スコールの方はなんとなく知識として同性同士の体の繋げ方は知っていたものの、フリオニールにそういう知識が豊富だとは到底思えず、だからひっそりとかなりの痛みを覚悟していたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「も、いい、から…っ」
存分に解され、散々中の感じる部分を擦られてスコールが限界を訴えるとフリオニールが心配そうに言う。
「でも、よく慣らさないとスコールがツライって…」
 どう見てもそのテの知識が殆どなさそうなフリオニールに、教えを施した仲間がいるらしい。たぶん、受け入れる側に負担が大きいからとにかくよく慣らすようにとでも教えたのだろう。けれど経験がないフリオニールには、どこまでいけばよく慣らしたことになるのか判らないのだ。
結果として、スコールは「これ以上されたら気が狂う」と思うほど焦らされることになった。
「へ、いきだ、から…、んんんっ」
 アンタが欲しい、と切れ切れに伝えられると、フリオニールは自身にグンと熱が集まることを感じる。今までだって、自身には大した愛撫は加えられていないのに、スコールの媚態を眼にしているだけでそこは大きく熱を持っていた。
 長く形のいい足を片方自分の肩へと引っ掛けて、フリオニールは自身をスコールの内へとゆっくり沈めていく。指とは違う質量にスコールの体が反り返るが、彼は痛いとも嫌だとも言わなかった。
すべてを収めきると、柔らかい肉がフリオニールを刺激する。耐えられずにフリオニールが腰を動かせば、絡みつくように受け入れてくれる。
「ん、ぁ…あ、あ…くっ、ん…っ」
声を抑えようと自分の手の甲を口許に押し当てる様がいじらしく、フリオニールはその手を掴んでどけさせると、代わりにキスでその声を吸い取った。
本当は聴いていたいけれど、こんな簡素なテントでは防音も何もあったものではない。
仲間たちは解っていて、少し距離を開けてテントを設営してそっとしておいてくれているが、万が一にも声が届いてしまったら、互いに気恥ずかしいに決まっているし、スコールは相当な照れ屋だから、盛大に拗ねられそうだ。
 合わさった唇の隙間からくぐもった声が洩れ出る。行き場をなくしたスコールの手が縋るものを求めて彷徨うから、フリオニールはその手に自分の手を重ねてぎゅっと握り締めた。白いスコールの指と浅黒いフリオニールの指が絡み合う。このままどこもかしこも混ざり合って離れられなくなってしまえたらいいのに。
 どんどん募る想いに突き動かされるように二人の間で生まれる熱は昂り、やがて真っ白に爆ぜた。
 
 
 
 抱き締めてくれる手が優しくて、なんだか胸がいっぱいになった。
スコールはそっと、自分を抱き締めたまま眠りに就いたフリオニールの寝顔を見つめる。
 フリオニールの世界にはクリスマスなんて習慣はなかったと言っていたから、きっとこれがフリオニールにとっての唯一のクリスマスの記憶になるだろう。
スコールの世界にはクリスマスという習慣は存在しているが、自分が今までその日をどう過ごしてきたのか記憶はない。けれどこの先、元の世界へと戻っても、クリスマスを誰かと過ごすことはないだろう。クリスマスという言葉から想い出すのは、ずっと、フリオニール唯一人だ。それはいつか別れなければならない恋人への、ほんのささやかな想いの証だ。
 メリー・クリスマス、フリオニール。
声に出さずにそう呼び掛けて、スコールは彼の腕の中でそっと目を閉じた。