夏真っ盛り。暑いわ蒸してるわ、蒸し暑いわ暑いわで、要はとにかく暑い日々。
幸いなのは、今が休みの真っ只中で、宿題を見て見ぬ振りしている小・中・高までと違い、前期試験とレポートの提出を終えた大学生はどれだけだらだらしていようが一向に問題ないということだ。
コンビニで買ってきた弁当で夕食を済ませ、たまにはいいかもしれない、と風呂に湯を張ってみた。
暑い季節に熱い風呂に浸かってどっと汗をかいて、水でさっと流す。なんともいえない爽快感に、毎日は面倒だが週1くらいなら風呂を沸かすことにしようか、なんて考えていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
時計を見れば午後10時。
誰だこんな時間に人様の家を訪ねてくるとは。勧誘だったら問答無用で警察に通報してやる。人をチョコボ呼ばわりする悪友だったら有無を言わさず3発ほどぶん殴った後に布団で簀巻きにしてベランダから吊り下げてやる。
そんなことを考えながら、大した広さもない部屋を横切り、玄関のドアを開ければ、そこに立っていたのは、4つ年下の隣人。
「スコール…?どうかしたのか?」
こいつから訪ねてくるとは珍しい。そう思って問い掛けると「別に」と相変わらず可愛げのない答えが返ってきた。
「これ、アンタにやる」
グイッと突き出された手にぶら下がっているのはコンビニのレジ袋。中を見れば、数本の缶ビール。思わず眉がひくりと動いた。
これは、発泡酒でも第3でも第4でもない、正真正銘のビール!しかも、このパッケージは、プ、プレミアムピール…!!
苦学生とは言わないが、生活費を仕送りに頼らない貧乏学生の身には手が出せないそれに、ふらふらと手を伸ばしそうになるのを寸でで止める。
未成年がコンビニでビール、と思うが、コイツの見た目じゃ身分証の提示を求められることもなかったのだろうと納得した。
しかし、何故突然スコールはビールをくれようなどと思ったのだ。
全く見当がつかずにいると、それを察したのだろうスコールがえらく不機嫌そうにビニール袋を手に押し付けてきた。
「自分の誕生日くらい、憶えておけ…!」
そのまま、脱兎の勢いで自室に戻っていったスコールの姿を見送って、バタン!と大きな音を立ててスコールの部屋のドアが閉まる音で、漸く合点がいく。
「…そういえば誕生日だったか、俺」
手の中のプレミアムビールを見る。
あの他人に無関心な態度を取りたがるスコールが、わざわざプレゼントを持ってきてくれるなんて。
…プレゼントがビール、という辺りがロマンも色気もないが、現実主義のスコールらしい。確かにコレほど確実に相手が喜ぶと判っているプレゼントもないだろう。
とりあえず、風呂上りの1杯を、窓を開けたベランダで愉しむとしよう。
風呂上りに夜風に吹かれてプレミアムビールを1杯。これ以上の幸せがこの世にあるか?いや、ない。
「あー、美味い」という心の底からの呟きは、同じく窓を開けている隣人の耳にも届く事だろう。
ありがとう、スコール。お前のおかげで、今年はいい誕生日になったよ。